最近、インターネットで戸愚兄弟のサングラスを見かけて、年甲斐もなく欲しくなってしまいました。心は永遠のティーン・スピリット、こんにちは、技術本部Strategic Products Engineering Unit Contract One Devグループの井上です😎
(本記事は【Strategic Products Engineering Unitブログリレー】という連載記事のひとつです。)
突然ですが、期末を迎える時期*1は、みなさんの所属するチームでもメンバーの入れ替わりが多いのではないでしょうか? メンバーが替わるたびに、スムーズにコラボーレーションを実現するためには工夫と仕組みが必要です。その中で改めて考えさせられるのは、チーム全員が共通のミッションを持つことの重要性です。
そこで今回は、「適切なミッションを設定することで、より良い開発チームを作る方法」について掘り下げます。ミッションがチームの力を引き出すためのカギとなる理由を、具体的な方法とともに見ていきましょう。
グループがチームになるために
最初に、『チーム・ジャーニー』や『心理的安全性のつくりかた』を読んだことがある方にはすでにお馴染みかもしれませんが、次の図を紹介してみます。
この図の表す通り、本当の意味でチームになるには“共通のミッションを持つ“ということが求められます。それなくしては、ただの人の寄せ集まり、グループとは呼べてもチームとは呼べない集合になってしまいます。
最近は「VUCAの時代」なんていう言葉もありますが、プロダクトを取り巻く状況は複雑で理解しがたく、常に予測不可能な変化が生じます。
このような不確実性の高い環境で迅速に適応していくためには、個の力を結集して答えを出していくことが欠かせません。メンバー同士は単なるグループを超えて「チーム」になる必要があります。
アジャイル開発の文脈では、そんなグループをチームに変えるミッションを「北極星」と呼びます。北極星は季節が移り変わっても位置が変わらない星です。それに準えて、「状況が変わり時間が経っても変わらない自分たちが大事にしたい・目指したい目標」という意味で北極星という言葉を使うわけです。
つまり、北極星とは変化が激しくてもブレない長期的な目標です。北極星を基準に意思決定を行うことで、チームは自律的に変化に対応しながら、組織全体としての一貫性を保てます。
北極星はどういうものであるべきか
では、そんな北極星をどのように設定したらよいでしょうか。北極星とはどのようなものであるべきでしょうか。
北極星はチームメンバーが心から共感できるもので、顧客の価値を最大化することを目標として設定されるべきです。
マッキンゼー・アンド・カンパニーの『アジャイル組織の5つの特徴』という記事では、次のように書かれています。
アジャイル組織は徹底的に顧客中心であり、顧客のライフサイクル全体にわたって多様なニーズを満たすことを目指します。……
アジャイル組織は、組織のための共有の目的とビジョン、すなわち「北極星」を設定します。北極星が、個々のメンバーが自分自身で情熱をもって参与していると感じられるように手助けします。……
北極星の考え方が深く根付いた柔軟で自律的な組織は、チャンスを機敏に察知してものにします。組織のメンバーは顧客の嗜好や外部環境の変化を自発的に観察し、それに基づいて行動するようになります。
「顧客中心主義」というと少し固いかもしれませんが、ユーザーにサービスを提供している会社なら「ユーザー中心主義」と言い換えてもいいかもしれません。この記事にあるように、予測不可能な変化に迅速かつ正しく反応するためには、北極星の中心にユーザーを据える必要があります。
目標なき指標
ユーザーに貢献するミッション(北極星)に向き合うことで、ユーザーが本当に求めるものを提供するための真のコラボレーションが始まります。
一方で、ミッションを持たずに指標だけを追い求めると、結果は悲惨なものになるでしょう。たとえコードの量やPRの数といった生産性指標が向上しても、それが必ずしもユーザーにとって有益であるとは限りません。
指標だけが独り歩きすると、開発チームは「ユーザーに役に立つプロダクトを作る」という責任から免れることになります。そうした環境では、ユーザーにとって本当に価値のあるプロダクトを作ることはできません。最悪の場合、ズルや誤魔化しによって生産性指標を上げることになり、顧客を喜ばせるプロダクトを作る代わりに、上司を喜ばせる数字を作る結果になりかねません。
とはいえ、指標が不要だというわけではありません。六分儀を持たない船が遭難するのと同じように、北極星を目指す気持ちだけでは目標に到達するのは難しいでしょう。
このことに関して、先日、ryuzeeさんの次のようなツイートを拝見しました。
チームに開発生産性云々を持ち込むのは、この質問に全部答えられるようにしてからだぞ。 pic.twitter.com/XCEpZYx6FQ
— Ryutaro YOSHIBA (@ryuzee) 2024年8月27日
開発生産性というのは指標です。つまり、「目標→指標」という順番が大事で、その逆になっているようではいけないということです。
NSMを設定する
北極星に向かうための指標を「NSM(North Star Metric)」と呼びます。NSMは、プロダクトの状況やビジネスの目的に応じて適切に選定する必要があります。重要なのは、ミッションに向けての進捗を正確に測定できる指標であることです。NSMには、インプット指標とアウトプット指標の2種類があります。
アウトプット指標
アウトプット指標は、プロダクトが実際に提供する価値や成果に焦点を当てます。この指標は顧客にとっての本質的な価値(=北極星)に直結しており、長期的にモニタリングするべきものです。例えば、顧客満足度や月間アクティブユーザー数などがアウトプット指標に該当します。
インプット指標
インプット指標は、アウトプット指標に影響を与える要素であり、実行可能なアクションに結びつけられるものです。良い数値を示すと、最終的なアウトプット指標の改善につながるような指標です。例えば、プロダクトの開発にでは「PRのリードタイムの短縮」や「開発者の作業時間の確保」がインプット指標となります。
ある指標が特定の状況下では有効に機能することもありますが、他の状況下では必ずしもそうではないかもしれません。データを収集しながら「目標→アウトプット指標→インプット指標」の関係を継続的に評価し、北極星へと確かに通じる指標を模索していくことが重要です。
まとめ
今回は、【共通ミッション】というテーマで北極星とNSMについて書きました。
話をまとめると、チームが機能するためには同じ1つのミッション(=北極星)を追うことが必要です。北極星を共有することで、チームは一貫性を持ちつつ、自律的に行動できます。北極星は、メンバーが心から共感できる、顧客を中心に置いたものであるべきです。北極星を目指す際、目標達成の進捗を測るための適切な指標を選択し、行動可能なインプット指標まで落とし込む必要があります。
ちょっと余談になりますが、これはOKRの考え方ともかなり通ずるところがあるかもしれませんね。
最後になりましたが、Contract Oneでは光に向かって(しからずんばあの北極星を目指して!)一緒に走ってくれる仲間を募集しています。
詳しくは次の資料をお読みください。
最後までお読みいただきありがとうございました!!
参考文献
- Matt LeMay, 吉羽 龍太郎 (訳), 永瀬 美穂 (訳), 原田 騎郎 (訳), 有野 雅士 (訳). みんなでアジャイル ―変化に対応できる顧客中心組織のつくりかた. オライリージャパン, 2020.
- 市谷 聡啓. チーム・ジャーニー 逆境を越える、変化に強いチームをつくりあげるまで. 翔泳社, 2020.
- Kan Nishida. “ノーススター(北極星)指標をモニターしてるのにビジネスが成長しないのはなぜか?“. データサイエンスの民主化. https://ja.exploratory.io/note/kanaugust/fwf8HRS9TC
- Wouter Aghina. "The five trademarks of agile organizations". McKinsey & Company. https://www.mckinsey.com/capabilities/people-and-organizational-performance/our-insights/the-five-trademarks-of-agile-organizations
*1:Sansanでは8月末が半期末となっています。