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Netflixドラマ「地面師たち」から学ぶ理想のリーダー像

こんにちは。技術本部 Contract One Dev の伊藤です。

現場の習慣を変える、契約データベース「Contract One」の開発業務を担当しています。

私は現在、5人のチームに所属し、新規機能の開発とチームマネジメント業務を担っています。チームで働くのが好きで、より良いチームとは何か、そしてチームの成長のためには何が必要かを日々考えています。そんな折、Netflixのドラマ『地面師たち』に出会い、その内容に深く引き込まれました。一気見するほど魅力的なドラマでしたが、中でも「ハリソン山中」というキャラクターが示したリーダーシップに強い印象を受けました。

今回は、彼や彼のチームを分析しながら、エンジニアリング組織におけるリーダーとしての在り方について考えたことをまとめてみます。

注意点 - 学ぶべきは「本質」のみ

まず強調したいのは、ハリソン山中のすべてを学ぶべきではないということです。彼は優れたリーダーシップを発揮していますが、物語の中では脅迫や殺人といった社会的に許されない行為も行っています。これらは当然、倫理的に受け入れられるものではなく、本記事の範囲からももちろん除外します。

ここでは、彼の行動からリーダーとして学ぶべきエッセンスに焦点を当て、エンジニアリング組織の文脈に置き換えて考察します。

また、なるべくネタバレにならないように最低限のエピソードに留めていますが、まだ全編を見ていない方はご注意ください。

目次

  • 相手を信頼し、責任を段階的に移譲する
  • 高い目標を掲げ、チームを鼓舞する
  • リスクを先回りし、取り除く
  • 明確な役割を与え、個々の力を最大化する
  • 厳しい場面で決断し、チームを導く

相手を信頼し、責任を段階的に移譲する

ストーリーでは、地面師チームが5人で活動しており、中心人物としてリーダーのハリソンと、地面師見習いの拓実が登場します。
ハリソンと拓実は師弟関係にあり、ハリソンは拓実に地面師とは何かを教えながらプロジェクトをこなしていき、拓実はどんどんと一人前の地面師になっていきます。ハリソンは拓実にリーダーを引き継いでいると見ることもできそうです。

ハリソンはいきなり拓実に大きな仕事をどんと任せるわけではなく、段階的に仕事の範囲を広げていっています。

1件目のプロジェクトではハリソンが全体的な準備を行い、なりすましも自分で決めていました。最後のプロジェクトでは、なりすましの候補を手配師に用意させつつ、判断は拓実に任せています。

「拓実さん、どう思いますか?」と判断を聞いていたことが印象的で、その時点でハリソンの中での結論はでていたと思いますが、拓実を信頼し、拓実自身に結論を出させています。

大きな役割を引き継ぐことは難しく、任せる責任の範囲を小さくし過ぎると獲得できる経験も小さくなってしまい、成長のスピードが遅くなってしまいます。逆に大きくし過ぎるとパニックゾーンに陥ってしまい、プロジェクトの進捗に遅れがでたり、本人も失敗から自信をなくしてしまうことになります。

本人が達成できるギリギリの責任の範囲を設定し、それをサポートする体制が重要であると学ぶことができます。

また、これらはお互いの信頼関係が重要です。ハリソンと拓実は1on1で話すシーンが多く登場しており、密にコミュニケーションをとりながら信頼関係を築いていることが読み取れます。

任せる側も相手を信頼して責任を移譲し、任される側も相手を信頼して未知の領域に飛び込んでいくことができます。

メンバーを信頼し、責任を移譲し、それをサポートする体制を構築することがリーダーに求められる、という学びが得られました。

高い目標を掲げ、チームを鼓舞する

Xなどでも有名なハリソンのセリフとして、最後のプロジェクトの企画を行っている際の次のセリフがあります。

もっと大きなヤマを狙いませんか…?そうですね…死人がゴロゴロ出るようなヤマです…つまらないじゃないですか…誰でもやれるようなことをチマチマやっていても…小さなヤマよりも大きなヤマ…容易いヤマよりは困難なヤマ…誰もが怖気付いて二の足を踏むような…難攻不落のヤマを落としてこそ…どんな快楽も及ばない…****よりも****よりも気持ち良いエクスタシーとスリルが味わえる…皆さんもそれを求めて…この仕事をしてるんじゃないですか…?

エンジニアリングのプロジェクトで死人が出ることなどもってのほかですが、以下のように置き換えられそうです。

もっと大きなタスクをやりませんか…?そうですね…成果がゴロゴロ出るようなタスクです…つまらないじゃないですか…誰でもできるようなことをちまちまやっても..容易いタスクよりは困難なタスク…誰もが無理だというような…誰も成し遂げられない大きな成果を出してこそ…どんな快楽も及ばない…****よりも****よりも気持ち良いエクスタシーと成長が得られる…皆さんもそれを求めて…この仕事をしてるんじゃないですか…?

ハリソンは完全に自分の欲望のためにやっているので最初の部分はかなり違いますが、概ね合っているのではないでしょうか。

人間は生物学的に変化を嫌う性質があるため、今までにやったことがないことを自分で目標として設定しにくいということがあると思います。チームとして余裕で達成できる目標ばかり掲げていると、コンフォートゾーンに入ってしまって成長が鈍化し、常に成長し続けるチームにはなれません。

常に先を見据えて妥協せず、自身・チーム・メンバーに対して高い目標を掲げ、チームを鼓舞する姿勢が重要であると学ぶことができました。

リスクを先回りし、取り除く

ハリソンはプロジェクトの実稼働にはあまり入っておらず、影に身を潜めていることが多かったです。しかし、実は常に先回りしてリスクを検知しており、プロジェクトの進捗に影響が出る前に取り除いています。

また、重要な観点として、メンバーにはプロジェクトのメインタスクに集中させていてリスク自体は共有していない、という点があると思います。プロジェクトの大事な場面でメンバーが100%のパフォーマンスを出せるように、あえてそうしていたと想像できます。

ソフトウェア開発は、不確実性が高い領域です。すべてのリスクを事前に完全に取り除くことはできず、実際に手を動かして実装してみて初めて気付く問題も少なくありません。たとえば、Big Things という本では、予期せぬ事態が時間軸に大きく左右されることが指摘されています。特に、プロジェクトが長期化するほど遅延のリスクが高まるという研究結果も示されています。

プロジェクトを進めていく上では、目の前のタスクに集中してなるべく早く進捗を作ることも重要ですが、プロジェクト全体を俯瞰して見ながら、潜在的なリスクがないかどうかをチェックする動きが重要です。全員でそういった動きができることも大切ですが、プロジェクトで主に責任がある人物は積極的かつ、こまめにチェックする動きが必要だと感じます。

プロジェクトが進んでいく中でも、潜在的なリスクがないか常に多角的な観点でチェックし、被害が大きくなる前に先回りして取り除くことが重要であると学ぶことができました。

明確な役割を与え、個々の力を最大化する

地面師チームには、手配師、法律屋、図面師、交渉役、リーダーと、それぞれに明確な役割があります。全員がそれぞれの分野で高い専門性をもっており、プロジェクト進行時にはそれぞれが単独で動いています。その結果、全体としてのアウトプットが高品質かつスピード感を持って進められているように思います。

これにはまず、プロジェクトにはどういった役割が必要なのかを定義することが必要で、基本、リーダーはそれらの分野をある程度理解し、問題が起きた際にはそれぞれに適切に指示を送るスキルが求められます。さらに、必要ならば自分自身が動いて穴を埋める行動を求められる場面も少なくないです。

別の観点として、役割が明確になることで責任の所在がはっきりし、担当者がオーナーシップを持ちやすくなります。これによりモチベーションが向上し、誰が対応するかで手間取ることも減るため、プロジェクト全体の進行がスムーズになると感じました。役割の明確化は、こうした効果を生む点で重要だと考えます。

地面師チームはそれぞれの領域に一人ずつですが、実際のチームでは同じ領域に複数人アサインされることの方が多いと思います。実際に完成させるためにはタスク量を捌けるだけの人数が必要なためです。

そうなると、それぞれの領域を役割として置くだけでは不十分で、同じ領域だとしても一人ひとりに対して役割を考えられることが必要なのではないかと考えました。

Contract Oneはチームトポロジーの考え方でチーム編成が行われており、フロントエンド・バックエンドを分けずに開発業務を行っています。メリットは多くあるのですが、個々人の担当領域が被りがちで、「明確な役割」が自然には生まれにくいという可能性があると感じました。

地面師チームのように、それぞれの役割を明確にしてハイパフォーマンスなチームを作ることは効果が高いと考えます。そういったチーム作りをしていくためにも、リーダーにはより総合的な知識と実行力が必要であると学ぶことができました。

厳しい場面で決断し、チームを導く

ストーリーの中で、地面師チームには何度かピンチが訪れています。特に、最後のプロジェクトでのなりすまし役のアクシデントはプロジェクトの進行上致命的なもので、誰もが失敗を確信するようなものでした。

しかし、ここでリーダーのハリソンは唯一の選択肢であったメンバーへの命令を下しています。メンバーからの反対などはありましたが、強行し、結果的にはプロジェクトを成功に導いています。

これらの行動は、コンプライアンス上も倫理的にも完全にアウトであり、正当化の余地は全くありません。ただし、あえて抽象化して現実的な視点から捉えると、「迅速な決断力と実行力」を持つという解釈もできそうです。

どのようなプロジェクトでも、進行に致命的なアクシデントはつきものです。アクシデントが起きて対応が必要な時、十分な情報、時間があるとは限りません。そんな中でもプロジェクトを成功に導くには、素早く「決断」する力が必要で、その決断でチームを導いていく力が必要であると学ぶことができました。

最後に

リーダーシップの本質を掘り下げていくと、実際の業務や日常で実践することが難しい側面も多いと感じます。それでも、ハリソン山中のようにチームメンバーを信頼し、適切な責任を渡しながら導いていくこと、そして目標を掲げてチームを鼓舞し、リスクに先回りすることは、どのような状況でも有効な考え方だと思います。

ソフトウェア開発は、複雑さと不確実性がつきまとう領域です。リーダーとして正しい選択を続けるためには、時に悩みながらも学び続ける姿勢が欠かせません。Netflixのドラマ『地面師たち』をきっかけに、私自身もチームのためにできることをより深く考えるようになりました。

この記事を読んでくださった皆さんが、自分自身のリーダーシップを振り返り、何か新しい視点を得るきっかけとなれば幸いです。皆さんの職場やチームでのエピソードもぜひお聞きしたいので、コメントやフィードバックをお待ちしています!
最後まで読んでいただきありがとうございました。

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