Sansan Tech Blog

Sansanのものづくりを支えるメンバーの技術やデザイン、プロダクトマネジメントの情報を発信

6GHz SSID導入への挑戦:高密度オフィスWi-Fiの混雑をどう解消したか

はじめに

こんにちは、Sansan株式会社 コーポレートシステム部の正木です。
前回の記事「本社移転に伴うネットワークの再設計と内製構築の舞台裏」では、渋谷サクラステージへの本社移転に伴う大規模ネットワーク刷新についてお話ししました。

今回は、その続編として、移転後のオフィスで私たちが直面した「5GHz帯の混雑」という新たな課題に、どう挑戦したかをご紹介します。
このプロジェクトは、「6GHz帯を活用した次世代Wi-Fi環境の導入」を核に、WPA3セキュリティの導入、デバイス管理の最適化、そして段階的な展開戦略まで、一歩進んだ無線LAN環境を目指しました。

ネットワーク設計・セキュリティ運用・デバイス管理に関心のある方にとって、参考になる内容をお届けできれば幸いです。

高密度オフィスにおける5GHz帯の混雑

本社での課題発見

本社移転に伴い、最新のWi-Fi6/6E対応APのCisco CW9164を全フロアに導入しました。

しかし、運用開始後に新たな課題が浮上しました。
渋谷サクラステージという高層ビル特有の環境では、近隣からの電波干渉や多数の従業員による同時接続が原因で、5GHz帯の混雑が深刻化していたのです。

特に執務フロアでは、従来の5GHz帯だけでは十分な通信品質を確保できず、業務に支障をきたす場面も発生していました。一部のユーザーには有線LANケーブルを延長して直接接続することで対応していましたが、これは根本的な解決策ではありませんでした。

そこで、既に導入済みの6GHz対応APの能力をフル活用し、6GHz帯による次世代Wi-Fi環境を構築することで、この課題を抜本的に解決することを決定しました。

5Ghzから6Ghzへ

技術戦略と実装プロセス

5GHz帯の混雑という課題を解決するため、導入済みの6GHz対応APを最大限に活用することを決めました。その際、以下の2つのアプローチを比較検討しました。

  1. 既存業務用SSIDの6GHz化:現在のSSIDをそのまま6GHzにも対応させる
  2. 6GHz専用SSID新設:新たな6GHz専用のSSIDを追加する

検証の結果、最終的には6GHz/5GHzデュアルバンド対応の新SSID新設という戦略を採用しました。この決定に至った背景には、デバイス管理システム(MDM)を通じた自動配布における技術的課題がありました。

技術実装の舞台裏:MDMの課題とMeraki設定

当初はMDMを使った自動配布を計画しましたが、実際の検証を進める中で複数の技術的制約が明らかになりました。

  • WPA3設定の制約:MDMからWPA3の明示的指定ができない
  • Security Type設定の限界:Security Type: Anyで配布してもWPA2で接続されてしまう
  • 端末側対応の不整合:端末がWPA3対応していても、実際はWPA2接続のままになってしまう

これらの問題により、MDMで配布しても6GHzへの接続が実現されず、むしろ混乱を招く可能性が高いと判断しました。
そこで私たちは、新SSIDは手動接続による運用に方針を転換しました。これによって5GHz帯での不調を訴えるユーザーを6GHz帯へ誘導するなど、個別最適化による迅速な問題解決が可能になり、柔軟な運用体制を構築できました。

この方針のもと、新設6GHz専用SSIDは以下のように設定しました。

  • セキュリティ:WPA3移行モード
  • バンド:5GHz/6GHz両対応(デュアルバンド)
  • チャネル幅:20MHz(無線品質優先)
  • 電波出力:5GHzより出力を上げて調整

特に私たちは通信速度の最大化よりも、無線品質の向上を優先しました。

6GHz帯はDFS(Dynamic Frequency Selection)の制約がなく、豊富なチャンネル数を確保できるため、狭いチャネル幅でより細かな周波数調整が可能になります。この特性を活かすことで、高密度なオフィス環境でも安定した通信を実現しました。

セキュリティとデバイス管理の統合設計

この結果、用途に応じた4つのSSIDを共存させる体制を構築しました。

用途 対応バンド WPA方式 配布方法
既存業務用SSID 5GHzのみ WPA2のみ MDM自動配布
新設6GHz専用SSID 5GHz/6GHz WPA3移行モード 手動接続
会議システム・IoT等 5GHzのみ WPA2のみ 手動設定
一般来客向け 5GHzのみ WPA2のみ SSID公開

段階的な導入と電波品質の保証

MDM配布から手動接続へと方針を転換したことで、私たちは慎重かつ柔軟な段階的展開が可能になりました。まず一部の区画でトライアル運用を開始し、以下のフェーズを経て全フロアへの展開を進めました。

  1. 検証フェーズ:技術的な検証
  2. 限定配布フェーズ:一部の区画での実運用テスト
  3. 全体展開フェーズ:全フロアへの展開

Ekahauを活用した継続的な品質保証

6GHz帯は、従来の5GHz帯とは異なる電波特性を持つため、継続的なモニタリングが不可欠です。

前回のブログでも紹介した無線サーベイツールのEkahauを活用して、定期的な電波サーベイを実施しています。

6GHz帯の運用で重視した観点

  • 信号強度の最適化:5GHz帯よりも減衰が大きいため、執務エリア全体で適切な信号強度を確保
  • チャネル干渉の監視:豊富なチャネル数を活かした干渉回避設計の効果を検証
  • SNR(信号対雑音比)の品質管理:高密度な利用環境での通信品質を確保
  • チャネル使用率の分析:6GHz帯への負荷分散効果を定量的に把握

この多角的な分析により、設計の妥当性と運用の安定性を実証できました。運用開始後のサーベイ結果では、信号強度、チャネル干渉、SNR、データレート、チャネル使用率などの項目で高い品質を維持していることを確認しました。また、5GHz帯の混雑緩和効果も数値として明確に把握でき、プロジェクトの目標達成を定量的に証明しています。
私たちはこのEkahauによる測定結果を基に、利用状況の変化に応じたRF設定の微調整や、新たな課題の早期発見・対処を継続しています。これにより、6GHz環境の安定運用と品質向上のサイクルを確立できました。

プロジェクトの成果と今後の展望

今回の6GHz帯導入プロジェクトを通じて、私たちは多くの学びと確かな成果を得ることができました。

プロジェクトで得た学びと成果

まずは技術面で得られた知見と、運用面での改善効果についてご紹介します。

技術的な発見

  • デバイス対応状況の複雑さ:WPA2/WPA3の対応状況がデバイスによって大きく異なり、個別対応の重要性を再認識
  • 電波伝播特性の違い:6GHz帯は5GHz帯よりも電波の減衰が大きく、今後のエリア設計に影響することを把握
  • Band Steeringの効果:適切な設定で、6GHz対応端末を自動的に誘導し、通信を最適化

運用面での改善効果

  • 5GHz帯負荷軽減:6GHzへの移行により、既存の5GHz帯の混雑が大幅に改善
  • 通信品質向上:特に大容量ファイル転送やビデオ会議での通信品質が向上
  • 柔軟な端末管理:対応端末は6GHz、非対応端末は5GHzへと自動で振り分け
  • 問題解決の効率化:5GHz帯で不調を訴える従業員を6GHz帯へ誘導することで、個別の通信問題を迅速に解決

5GHz帯と6GHz帯の特性比較

今回の運用で改めて得られた両帯域の特性の違いをまとめると、以下のようになります。

項目 5GHz帯 6GHz帯
利用可能チャンネル数 限定的 豊富(20MHzで多数確保可能)
DFS制約 気象レーダーとの干渉回避が必要 制約なし
電波の混雑状況 高密度環境で混雑 クリーンな電波環境
伝播特性 良好な伝播距離 5GHz帯より減衰が大きい
デバイス対応 幅広いデバイスが対応 最新デバイスのみ対応
セキュリティ WPA2/WPA3 WPA3
通信品質 干渉による品質低下 安定した高品質通信

今後の展望と課題

6GHz基盤の安定化を受け、私たちは次のステップを見据えています。

継続的な運用課題
現在の6GHz環境運用では、以下の課題に継続的に取り組んでいます。

  • 対応端末の拡大:新規購入デバイスやBYOD端末の6GHz対応状況を確認し、環境をさらに最適化
  • 負荷分散の最適化:6GHz帯への偏りが生じるリスクを考慮し、両帯域の利用状況をリアルタイムで監視し、動的なコントロールと予防的な対策を計画

次のステップ
この安定した基盤を活かし、以下の発展的な取り組みを計画しています。

  • 利用状況分析の高度化:データ活用による最適な負荷分散を実現
  • 新技術の対応準備:Wi-Fi7規格の移行計画を策定
  • 運用自動化の推進:監視・制御プロセスの自動化を検討し、運用のさらなる効率化を目指す

おわりに

今回の6GHz SSID導入プロジェクトは、技術的な挑戦であると同時に、企業内無線LAN環境の未来を見据えた重要な取り組みでした。単なる新技術の導入に留まらず、セキュリティ強化、デバイス管理の効率化、そして段階的な展開による安定運用まで、包括的な進化を実現できたことは、私たちチームにとって大きな成長につながりました。

このような次世代技術への挑戦は、ネットワークエンジニアにとって非常に刺激的な経験です。Sansanでは今後も、こうした先進的な取り組みを積極的に推進し、従業員の皆さんがより快適に業務に集中できる環境作りに取り組んでいきます。

読者へのメッセージ

Sansanのコーポレートシステム部では、本記事のようなネットワーク関連業務に限らず、他メンバーによる以下のような取り組みも行っています。
buildersbox.corp-sansan.com
buildersbox.corp-sansan.com

ネットワークにとどまらず、IDやデバイスといった領域まで一貫して、業務インフラ全体を設計・運用しています。
この記事を読んで私たちの挑戦に少しでも共感し、「もっと詳しく聞いてみたい」「一緒に挑戦してみたい」と感じていただけたなら、ぜひ一度カジュアルにお話ししませんか。チームや業務内容、今後の展望について、ざっくばらんにお話しできれば嬉しいです。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

Sansan技術本部ではカジュアル面談を実施しています

Sansan技術本部では中途の方向けにカジュアル面談を実施しています。Sansan技術本部での働き方、仕事の魅力について、現役エンジニアの視点からお話しします。「実際に働く人の話を直接聞きたい」「どんな人が働いているのかを事前に知っておきたい」とお考えの方は、ぜひ エントリー をご検討ください。

© Sansan, Inc.