
はじめに:なぜAIサービスは定着しないのか
こんにちは。研究開発部Data Direction Groupの辺見です。
2024年2月にSansanに入社しました。新卒では日系コンサルティングファームに入社し、その後データサイエンティスト、サポートエンジニアを経験してSansanにジョインしました。入社後はSansan Labsの開発、社内データ活用支援を担当し、Sansan AIエージェントの前身となる「Sansan BI」という新規事業の立ち上げと初期開発に携わりました。現在はコンサルティングとエンジニアリングの実務を両方経験してきた強みを活かし、FDE(Forward Deployed Engineer)チームの立ち上げを行い、チームリーダーとして活動しています。
これまでのブログリレーで、坂口が「Sansan AIエージェントの4つの価値」を、中根・齊藤・中村がその技術基盤を紹介しました。本記事では、4つ目の価値である「FDEによるラストワンマイルの支援」について深掘りします。
多くの企業でAIサービスが導入されています。しかし、現場に定着しないケースが後を絶ちません。
「プロダクトは良いのに使われない」
この問題の根本原因は何か。
私は「分断」だと考えています。ビジネス・データ・現場がバラバラに存在している。この3つをつなぐことこそが、Sansan AIエージェントのFDEのミッションです。
ビジネス・データ・現場の3層とは
FDEが「つなぐ」べき3つの層とは何か。順に説明します。
ビジネス層
最初に理解すべきは、顧客のビジネスそのものです。プロジェクトにジョインする前の企業リサーチや、実際の顧客へのヒアリングを通じて、顧客企業のビジネスモデル、商流、営業の進め方を立体的に理解します。
例えば商流ひとつをとっても、商社経由か直販かによって設計すべきデータモデルは大きく変わります。中間にどの程度のレイヤーが存在するかも重要な判断材料です。
また、顧客企業内のチーム編成も重要な観点です。営業組織がどのように分かれているのか、役割分担はどうなっているのかによって、AIエージェントをどこまで個別最適化すべきか、その粒度も変わってきます。
加えて、営業課題の見極めも欠かせません。営業活動そのものの効率化が目的なのか、ナレッジ共有や再現性の向上が課題なのか、あるいは別のボトルネックが存在するのか。これを正しく捉えなければ、解くべき問題設定を誤ってしまいます。
このように、ビジネス層を深く理解してはじめて、データやAIをどのように活用すべきかという方針を定めることができます。
データ層
次に、データの現状を整理します。
まずは、顧客のシステム構成や利用可能なデータ、そしてSansanが実際にどのように使われているのかを把握します。その上で、前段で整理したビジネス層の理解を踏まえ、現状のデータでどのビジネス課題が解決でき、逆にどの課題がデータ不足によって解けないのかを見極めます。
実際のプロジェクトでは、必要なデータが存在しない、粒度が不足している、あるいはシステム間で分断されているため、施策に踏み出せないケースも少なくありません。一方で既存データを丁寧に見ていくことで、当初は明確でなかったビジネス上の課題や改善余地が浮かび上がることもあります。
そのためFDEは、短期的な実現可否の判断にとどまらず、将来的に課題を解決できる状態をつくるための助言も行います。例えば、このデータとこのデータをつなぐためにはどのカラムをキーとして持つべきか、どのような形でデータを蓄積していくべきかといった点まで踏み込み、システム構成やデータ設計そのものの見直しを提言します。
このように、データの有無や構造を起点にビジネス課題との対応関係を整理し、今できることと将来に向けて整えるべきことを切り分けることが、データ層におけるFDEの重要な役割です。
現場層
最後に、そして最も重要なのが現場層です。
現場層とは、最終的にプロダクトや仕組みを導入し、日々の業務の中で実際に使ってもらう場所を指します。FDEはアンケートやヒアリングといった定量・定性の調査に加え、実際の業務シーンに立ち会い、利用状況を観察することで、机上では見えない課題や違和感を捉えます。
そこで得られた現場のフィードバックを基に、改善の優先順位を判断し、素早くプロダクトや設定へ反映していきます。この改善サイクルを回し続けることが、現場への定着には不可欠です。
ここが一番大事です。どれだけ優れた戦略やデータ基盤を整えても、現場で使われなければビジネス上の価値にはつながりません。
FDEとは:「つなぐ」存在
一般的なFDEとは
FDE(Forward Deployed Engineer)は、日本語では「現場配備型エンジニア」と訳されます。プロダクトを起点に顧客の現場へ入り込み、導入から活用に至るまでのラストワンマイルを埋める役割を担います。
その立ち位置は、提案までで役割を終えるコンサルタントとも、要件に基づいてフルスクラッチで構築するSIerとも異なります。既存のプロダクトの力を最大限に活かしながら、顧客固有の業務や課題に適応させ、実際に価値が出るところまで伴走する。その中間に位置する存在がFDEです。
Sansan FDEの特徴
SansanのFDEは、Sansanがこれまでに蓄積してきた強力なアセットを前提に活動します。名刺・商談・企業といったデータ資産や、高度な名寄せ技術、SaaSとしてのプラットフォーム、そして営業領域に特化した業務知見がその基盤です。
これらを活用するため、Sansan FDEの仕事は単なる技術実装にとどまりません。顧客のビジネスや業務構造を深く理解した上で、データと現場をどう結びつけるかを設計する、コンサルティング色の強い役割を担います。
単に機能を作るのではなく、ビジネス・データ・現場の3つをつなぎ、AIが価値を発揮し続ける状態をつくること。それがSansan AIエージェントのFDEのミッションです。
具体例:2つの「つなぎ方」
ここまで、FDEがビジネス・データ・現場の三層をどのように理解し、つないでいくのかを説明してきました。では、それを実際のプロジェクトではどのように実践しているのか。ここからは、FDEが現場でどのように価値を生み出しているのかを、2つの具体例を通して紹介します。
事例1:Kintone × Sansan の統合分析
ビジネスとデータをつないだ事例です。
ある顧客は、社内で「導入事例」をKintoneアプリで管理していました。一方、Sansanにはコンタクト(接触履歴)のデータがあります。
この2つは別々のシステムに存在しており、そのままでは横断的な分析ができない状態でした。FDEはまず、どのようなビジネス上の価値を生み出したいのかという観点から活用シーンを整理し、その実現に向けてどのようなデータのつながりが必要かを明らかにしました。
その上で、Kintone側で管理されている事例情報とSansanのコンタクトデータをどのように対応づければよいのか、必要となる分類軸やキー項目、改修の進め方を整理し、技術的なロードマップや懸念点を提示しました。実装自体はFDEが単独で行うのではなく、顧客と役割分担しながら段階的に進め、現在は実際に利用できる状態となっています。
こうした取り組みによって、テーマごとに事例とコンタクトを横断的に分析できる状態が整い、「このテーマではどの事例が有効か」といった示唆を、データに基づいて得られるようになりました。
事例2:飛び込み営業における利用シーンの発掘
ビジネスと現場をつないだ事例です。
ある顧客では、営業活動を支援するための情報提供の仕組みを、今回の取り組みの中で新たに整備しました。導入当初は、先方事務局の営業課長によって内容がレビューされており、必要な情報が網羅されていることが重視されていました。その観点では大きな問題はないと判断され、現場への展開が進められました。
一方でFDEは、その情報がどのような業務シーンで、どのように使われているのかに着目しました。営業拠点に赴き、現場の営業担当者へのヒアリングや業務観察を通じて、飛び込み営業という具体的な利用シーンが浮かび上がってきました。
飛び込み営業の現場では、詳細な情報をじっくり確認する余裕はありません。重要なのは、訪問先の候補を素早く判断できること、そして過去に接点があったかどうかを即座に把握できることでした。管理職向けに設計された情報量の多い構成は、こうした現場の意思決定には必ずしも適していなかったのです。
そこでFDEは、飛び込み営業という利用シーンを前提に、どの情報が判断に本当に必要かを整理し直しました。情報の網羅性を追求するのではなく、現場での一瞬の判断を支えることに主眼を置き、情報を意図的に削ぎ落とした形で活用方法を再設計しました。
この結果、営業担当者が日々の活動の中で自然に活用できる状態が生まれ、情報が現場の行動につながるようになりました。利用シーンを起点にAIやデータの使い方を定義し直すことも、FDEが担う重要な役割のひとつです。
プロダクトへの還元:二面性の追求
FDEの仕事は、個別の顧客課題を解決することだけではありません。一社ごとの対応で得られた知見を、他の顧客でも使える形にしてプロダクトへ戻していくことも、重要な役割です。
例えば、商談準備や日々の活動の振り返りといった業務は、多くの企業で共通して発生します。参照するデータや対象範囲は顧客ごとに異なりますが、「事前に何を把握し、次に何をすべきか」という判断の流れ自体は共通しています。
そこでFDEは、こうした繰り返し発生する業務をタスクとして切り出し、Sub-Agentとして整理します。現場での利用を通じて改善を重ねながらプロダクトに組み込み、次の顧客では一から検討せずに立ち上げられる状態を目指しています。
また必要に応じて設計や小規模な改修にも直接関与し、現場で見えた課題をスピード感を持ってプロダクトへ反映します。その場限りの個別対応に留まらず、プロダクトそのものを進化させること。これがSansan FDEが大事にしている指針です。
おわりに:一緒に「つなぐ」仲間を募集しています
FDEの仕事は、単に顧客対応を担う役割でも、技術実装だけを担う役割でもありません。顧客の業務やデータの実態に深く入り込み、ビジネス上の課題を構造として捉え直し、AIエージェントとプロダクトの力で解決できる形へと落とし込んでいく仕事です。
現場で得られた知見は、その場限りの対応で終わらせるのではなく、抽象化し、再利用可能な形でプロダクトや導入プロセスへと還元していきます。こうした循環を回し続けることで、個別最適にとどまらない、再現性のある価値提供が可能になります。
戦略を考える。データと業務を整理する。現場で検証する。そしてプロダクトへ戻す。FDEは、この一連のサイクルを一気通貫で担う存在です。
求められるスキル・スタンス
この役割では、特定の職種に閉じたスキルよりも、技術とビジネスの境界を行き来しながら価値を形にしていく姿勢が求められます。
- 技術力:データエンジニアリングやアプリケーション開発を含む実装スキル。必要に応じて自ら手を動かし、プロダクトに反映できる力
- ビジネス理解:営業プロセスや業務構造を理解し、顧客の本質的な課題を言語化できる力
- 推進力・コミュニケーション:経営層から現場まで、立場の異なるステークホルダーと対話し、合意形成を前に進める力
ビジネス・データ・現場をつなぎ、AIエージェントの価値を顧客へ届け切る仕事に興味がある方、ぜひお話ししましょう。