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【つながりに効く、ネットワーク研究小話】vol.10 闇のネットワーク、どこまで迫れるか?(後編)

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Sansan DSOC研究員の前嶋です。「つながりに効く、ネットワーク研究小話」の第10回です。

最近、すみだ水族館の年間パスポートを購入しました。気が向いたときにクラゲや金魚の写真を撮りに出かけています。たまにペンギンの赤ちゃんを見ることもできるので、とてもおすすめです。

闇のネットワークに対する防衛術

さて、前回は「闇のネットワーク(dark network)」の概要を説明しました。簡単におさらいしておきましょう。

「闇のネットワーク」とは、麻薬の売人のネットワークやテロリストのネットワークなど、「不透明」かつ「違法」な活動を行っているような組織のネットワークのことでした。そして、その重要な特徴とは、計画を実行に移すための「結束」と計画を外部に知られないための「隠密」のバランスを取る必要があるということでした。

今回は「闇のネットワーク」に対する介入方法について解説したいと思います。主に「キネティックアプローチ」と「ノン・キネティック・アプローチ」の2つに分類されます(Everton 2012)。それぞれ簡単に紹介します。

キネティック・アプローチ

「キネティック・アプローチ(kinetic approach)」は、武力など攻撃的な手段によって、闇のネットワークにおけるリーダーやブローカーを排除・無力化するという、直接的なアプローチです。

闇のネットワークは、スケールフリー性を呈することがあると言われています(e.g. Sageman 2003)。「スケールフリー性」とは簡単に言うと「少数の個人につながりが集中する」というネットワークの状態のことを指します。このような場合、少数のハブを除去することで、ネットワークを瓦解させることができます。キネティックアプローチは「特定の人物を排除する」という点で非常にわかりやすい対処法で、一見すると効果的に働くように思えます。

しかし、キネティック・アプローチには重要な問題があります。それは、特定人物への攻撃が報復や復讐の機運を生み出し、かえって闇のネットワークの活性化に寄与してしまう恐れがあることです。短期的に見ればネットワークの機能は低下しますが、長期的に見れば、対策としては有効ではないでしょう。そこで、近年では武力に頼らないノン・キネティック・アプローチが注目されています。

ノン・キネティック・アプローチ

「ノン・キネティック・アプローチ(non-kinetic approach)」とは、人道的支援や情報操作などの非攻撃的で間接的な手段によって闇のネットワークに介入するアプローチです。

例えば、心理学的介入(Psychological Operations, PsyOp)と呼ばれる戦略では、プロパガンダの流布や安全を保証することによって、構成員の感情に訴えかけます。一部のメンバーに亡命を保証することで、闇のネットワーク内で対立が起きるように誘導するというような「分割統治」戦略はその一例と言えます(e.g. NYタイムスの記事 )。

他にも、リハビリと再統合(re-habilitation and re-integration)と呼ばれる戦略があります。闇のネットワークはしばしば、一般の社会からは隔離されて形成されることがあります。そのような閉鎖的なネットワークは、時として極端な思想を醸成することがあります。この戦略の狙いは、分離したネットワークを市民社会に再統合することで、過激主義の芽を摘むことです(e.g. Ramakrishna 2005)。

諸問題

ここまで、「闇のネットワーク」に対する介入について紹介してきましたが、これらはネットワーク分析の軍事利用に該当するため、様々な倫理的な問題も付随する領域でもあります。

例えば、不完全なネットワークデータによって誤ってハブと認識された罪のない市民が誤って「排除」されるようなことはあってはなりません。Roberts and Everton(2012)などは、闇のネットワークを資金の流れや友人関係などからなる多層的なネットワークとして考慮するようなフレームワークを考案していますが、それでも完全に真なるネットワークというのは観測することが困難です。

Everton(2012)は、ネットワーク分析による知見は「意思決定」それ自体ではなく「意思決定のための通知」に留めるべきだと述べています。ネットワーク分析はあくまで手段の一つであって、それを盲信するべきではありません。これは「闇のネットワーク」だけにとどまらない、普遍的な論点だと思われます。

【参考文献】

Everton, S. F. (2012). Disrupting dark networks (Vol. 34). Cambridge University Press. Ramakrishna, K. (2005). Delegitimizing global jihadi ideology in Southeast Asia. Contemporary Southeast Asia: A Journal of International And Strategic Affairs, 27(3), 343-369. Roberts, N., & Everton, S. F. (2011). Strategies for combating dark networks. Sageman, Marc. 2003. “Global Salafi Jihad: Statement to the National Commission on Terrorist Attacks upon the United States.” National Commission on Terrorist Attacks upon the United States.

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