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【つながりに効く、ネットワーク研究小話】vol.13 「やぁやぁ、知ってる?」―噂と社会ネットワーク

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Sansan DSOC研究員の前嶋です。随分とご無沙汰してしまいました。「つながりに効く、ネットワーク研究小話」の第13回です。先日、新宿御苑に独りで散歩に出かけたのですが、早咲きの桜の木に野鳥が集まっていました。双眼鏡でよく観察してみると、ヒヨドリのくちばしに黄色の花粉がついており、とても愛くるしかったです。

今回の記事では、「噂と社会ネットワーク」について書きます。あなたが最近聞いた噂は、どのようなものでしょうか。「あの人はどうやら株で大損したらしい」「あの人の父親はどうやら有名な芸能人らしい」「どうやらトイレットペーパーが品薄になるらしい」…など、私たちは日常的に、さまざまな噂を耳にします。

噂と社会ネットワーク

さて、噂(gossip)は社会ネットワーク研究の領分でもあります。というのも、噂は人から人へ、社会ネットワークを通じて広まっていくものだからです。なかでも今回の記事では、噂の「社会的影響」と「社会的機能」について考えていきたいと思います。結論から言うと、噂には、集団のパフォーマンスに作用するだけでなく、社会を作り上げたり、社会をつなぎ続ける役割もあるのです。

前もって留意していただきたいのですが、この記事では「噂の広がり方」に関するトピックは扱いません。ですが、もし、噂がどのように社会ネットワークの中で拡散していくかに関する数理モデルに興味のある方は、(少々反則な気もしますが)英語版のWikipediaがよくまとまっていますので、そちらを参照されるかとよいと思います。

en.wikipedia.org

職場での噂がもたらす影響

まずは、噂のもたらす社会的影響についてです。今回は特に「職場の噂」に関する話題を取り扱います。Kurland and Pelled (2000: 429)は、「職場の噂」を「組織内の非公式で評価的な話し合いであり、通常は数人の個人が参加する、そこにいないメンバーについての会話」と定義しています。

職場の噂は、ただの世間話のような無害なものも多いですが、時として、特定の誰かを妨害するために流布される、あるいは、そのような意図がなくともそのように作用してしまうことがあります。

心理学には「職場の迫害(workplace victimization)」という用語があります。これは「意図したターゲットに心理的、感情的、または身体的危害を引き起こす組織の1人または複数のメンバーによって行われる攻撃行為」として定義されています。また、経営学では「長期的に、積極的な対人関係、仕事関連の成功、および評判を確立および維持する能力を妨げることを目的とした行動」のことを「社会的アンダーマイニング(social undermining)」(Duffy et al. 2002: 332)と呼びます。

あまりに悪質な噂は、「職場の迫害」や「社会的アンダーマイニング」のような効果をもたらし、職場の生産性を低下させたり、徐々に職場への不信感を増し、離職率を上げたりする可能性があります(Gouda et al. 2005)。

噂の社会的機能

このように、噂には組織や職場の環境に悪影響をもたらす可能性があります。そもそも、このような研究結果を提示せずとも、誰しも、悪い噂の対象にはなりたくないものです。また、噂を誰かから聞く時、あるいは噂を誰かに伝える時にも、ある程度の「後ろめたさ」を感じるかと思います。しかし、それでもなぜ噂は絶えないのでしょうか?

噂には「フリーライダーを抑制する機能」があると主張したのが、この連載の第8回でも登場した進化生物学者のロビン・ダンバーです。

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ダンバーの研究グループは、職場や様々な場所で、人々の会話を30秒間隔で記録しました。そこで明らかになったのは、噂は、会話時間の約65%を占めていたということです。この結果は、年齢や性別、場所によって大きな差がありませんでした。

ダンバーらによれば、噂には、次のような役割があると言われています。「社会ネットワークの中で何が起きているかを知る・知らせること」「自分の同盟相手の利点・ライバルの欠点の宣伝」「アドバイスを求める」「フリーライダーの取り締まり」の4つの役割です。

この中でも、ダンバーらは「フリーライダーの取り締まり」を最も重要視しています。仮に集団内のメンバーがフリーライダー的な行動をした場合でも、噂によって集団内にその情報を伝えることができ、結果的に集合的なサンクション(制裁)を早期に、また効果的に加えることができるのです。

実際、ある社会実験では、他者の評判についての情報をよく交換するグループのほうが、効果的にフリーライダーを追放でき、そうでないグループよりも協力行動が促進されたという研究報告もあります(Feinberg et al. 2014)。噂には、社会の効率性を高めるような働きがあるようです。

噂ネットワークと友人ネットワーク

ここまで、進化的な側面から見た噂の社会的機能について紹介してきました。ここからは、噂と実際の社会ネットワークの間にどのような関係があるのかを見ていきます。

まず、噂を広げるネットワークは、友人関係のネットワークと不可分です。Ellwardt et al.(2012a)は、職場での友人関係と噂の「共進化」について調査しました。問われているのは、「友人だから噂するのか、それとも噂をするから友人になるのか」という問題です。

彼らは、オランダのある保育施設で働くスタッフを対象に、「誰を友人だと思っているか」そして「誰から噂を聞いたか」を、複数時点で調査しました。前者は「友人関係のネットワーク」を、後者は「噂伝達のネットワーク」をそれぞれ構成します。

その結果、友人ではない人々の間で噂が伝達された後、両者の間に友人関係が発生しやすいことがわかりました。噂を共有することで両者に信頼関係が生まれ、その結果、友人関係が発生しやすくなるのです。これはまさに、噂が社会的結束を作り上げる証拠と言えましょう。

しかし同時に、多くの人に噂を広めている人は、友人として指名されない傾向にあることも明らかになりました。噂を伝達する人は、フリーライダーの抑制など、そのグループに対して貢献していると解釈されるため、友人として選ばれやすい可能性も考えられますが、実際にはそうなっていませんでした。この現象の背景としては、あまりに多く噂を流す人が、秘密の管理ができない人として信頼が置けないと認知されるから、あるいは、自分がその人と親密な関係になったらその人に噂を流されることを恐れるからといった理由が考えられます。噂を流すことには一定の社会的な評価が与えられますが、過度の「ゴシップ好き」は疎まれるようです。

噂の標的になるのは誰か

さらに同じ研究チームは「誰が噂の標的になるのか」も検証しています(Ellwardt et al. 2012b)。この研究における主な発見は、次の3つです。

第一に、良い噂でも悪い噂でも、噂は職場の中で違うチームの人というよりも、同じチーム内の人についての話題の方が多かったのです。直感的には、噂とは遠い他者についての情報である、というイメージがありますが、実際には、「近くの他者」についての情報であることが多いのです。

第二に、噂の対象となるかどうかは、友人関係のネットワーク上の地位とも関連していました。ここでの「ネットワーク上の地位」とは、価値の高いつながりをどれだけ持っているか(固有ベクトル中心性)のことです。分析の結果、友人ネットワーク上で地位の低い人ほど、悪い噂の対象になりやすい傾向があることがわかりました。

なぜでしょうか?もし、ネットワーク上の地位の高い人の噂をした場合、その噂は本人に流れてくる可能性が高くなります。地位の高い人の知り合い(取り巻き、といってもよいでしょう)から、「あなたの噂をあの人が流している」という事実が本人に伝えられることもあるでしょう。その場合、噂を流した本人は、地位の高い人のもつ動員力を利用されて、制裁を受ける可能性があります。逆に、地位の低い人に関する悪い噂は、それを流布するリスクが低い割に、集団の規範を理解していることのシグナルとしても機能するとも考えられます。

第三に地位が低く、噂の対象になりやすい人は、特定の人に集中していました。先ほど、地位の低い人ほど悪い噂の標的になりやすいという結果を紹介しましたが、ネットワーク上での地位が低い人には悪い噂が集中します。つまり、ネットワーク上の地位が低い人は、その集団における「スケープゴート」として利用されるのです。

さいごに:上司に関する噂

ここまで、噂の持つ社会的な機能や、社会ネットワークとの関連性について紹介してきました。直感的には、噂は社会に悪い影響をもたらしそうに思えますが、噂によってフリーライダーを抑制したり、友人関係を発生させる役割もあるのです。

しかし、当然ですが、噂の行き過ぎには注意しなければなりません。悪い噂の対象になる人は社会の中でも周辺にいる人々であること、悪い噂になる人は更に悪い噂が集中する、といった知見は、過度の噂を抑制するために使える知見となるでしょう。

最後に、「職場のマネージャーを標的とした噂」が流れる条件についての研究を紹介しましょう。その条件とは、従業員とマネージャーが交流する頻度が低い、上司と部下が友好的な関係ではない、上司への信頼が低い、という条件です。また、この傾向は、従業員間での信頼が高いほど、効果が大きくなるようです(Ellwardt et al. 2012c)。

もし、管理職の方がこの記事をお読みの場合、耳が痛い方がいるかもしれません。そんな時は、もう少し部下とコミュニケーションを取ってみてはいかがでしょうか。ひょっとしたら今度は「あの人、最近急にフレンドリーになってきたよね」という噂が流れるかもしれませんが…。

【参考文献】

Aquino, K., & Thau, S. (2009). Workplace victimization: Aggression from the target's perspective. Annual review of psychology, 60.

Duffy, M. K., Ganster, D. C., & Pagon, M. (2002). Social undermining in the workplace. Academy of management Journal, 45(2), 331-351.

Dunbar, R. I. (2004). Gossip in evolutionary perspective. Review of general psychology, 8(2), 100-110.

Ellwardt, L., Labianca, G. J., & Wittek, R. (2012). Who are the objects of positive and negative gossip at work?: A social network perspective on workplace gossip. Social Networks, 34(2), 193-205.

Ellwardt, L., Steglich, C., & Wittek, R. (2012). The co-evolution of gossip and friendship in workplace social networks. Social Networks, 34(4), 623-633.

Ellwardt, L., Wittek, R., & Wielers, R. (2012). Talking about the boss: Effects of generalized and interpersonal trust on workplace gossip. Group & organization management, 37(4), 521-549.

Feinberg, M., Willer, R., & Schultz, M. (2014). Gossip and ostracism promote cooperation in groups. Psychological science, 25(3), 656-664.

Gouda, C. M., van Vuuren, L. J., & Crafford, A. (2005). Towards a typology of gossip in the workplace. SA Journal of Human Resource Management, 3(2).

Kurland, N. B., & Pelled, L. H. (2000). Passing the word: Toward a model of gossip and power in the workplace. Academy of management review, 25(2), 428-438.


これまでの記事

vol.12 強いつながりの条件

vol.11 幻の社会的孤立化をめぐって

vol.10 闇のネットワーク、どこまで迫れるか?(後編)

vol.9 闇のネットワーク、どこまで迫れるか?(前編)

vol.8 「信頼」か、「しがらみ」か?――社会関係資本のダークサイド

vol.7 セレンディピティと社会ネットワーク

vol.6 友だちの数に限界はあるか?

vol.5 社会ネットワークと転職

vol.4 「類は友を呼ぶ」の科学

vol.3 出会わせない、が、世界史を変えていた

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