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【つながりに効く、ネットワーク研究小話】vol.14 もう一つの「社会的距離」

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Sansan DSOC研究員の前嶋です。「つながりに効く、ネットワーク研究小話」の第14回です。本来は今頃、夏鳥を観察しに戸隠高原に遠征する予定だったのですが、新型コロナウイルス禍の中で、自宅待機を余儀なくされています。

ソーシャル・ディスタンシング

このような先行きの見えない状況の中、バズワードになっているのが「社会的距離」です。「社会的距離(戦略)」とは、「ソーシャル・ディスタンシング」とも呼ばれ、ウイルスの感染を防ぐために、他者との距離を一定程度確保することを指します。最近では、スーパーのレジ待機列に、前の人との距離の目安となるようなテープが貼られることも増えてきました。

社会学を専攻している私は、この言葉をテレビのニュース番組で初めて耳にした時、虚を突かれました。なぜなら、「社会的距離」は社会学の中で、とりわけ社会ネットワーク研究に近い領域で伝統的に用いられてきた用語だからです。

もう一つの「社会的距離」?

およそ100年前の話です。シカゴ大学のロバート・E・パークは、「人種的態度および人種的関係の研究に適用される社会的距離の概念」という論文の中で、「個人的および社会的関係を一般的に特徴付ける理解と親密さの程度と等級」として社会的距離(social distance)の概念を考案しました(Park 1925)。つまり、社会的グループの間の親しさを、距離というメタファーで表そうとしたのです。

これを定量化可能な尺度として提案したのが南カリフォルニア大学のエモリー・S・ボガードゥスです。ボガードゥスは、社会調査のアンケートの中で、「ある人種的グループに対して自分との関係性をどこまで認めるか」についての質問を行ったのです。選択肢は「配偶者・親族として」から「国から追放する」まで、親密さや寛容さの段階が7つ設定されました。

当時、パークとボガードゥスは「太平洋岸における人種関係調査」に関わっていました。この概念が考案された背景には、当時西海岸で深刻化していたアジア系移民とアメリカ市民の間のコンフリクトを調査する中で、異なる人種グループ間で生じる偏見や対立を記述・分析することにありました(徳田 2003)。社会的距離に関する調査は、近年に至るまで継続されています(Parrillo and Donoghue 2005)。

相互作用ベースの社会的距離

社会的距離は、直接的な質問による方法だけでなく、職業間の婚姻・友人関係のデータなどから導くこともあります。有名なのが、ケンブリッジ社会的交流階層スコア(CAMSIS, http://www.camsis.stir.ac.uk/)です。職業間での婚姻や友人関係が多い職業ペアでは距離が近く、逆に、少ない職業ペアでは距離が遠くなります。これは、ボガードゥスらの社会的距離概念が認知的な親しさを測定しているのに比べ、グループ間の実際の相互作用の起きやすさをベースとしたスコアと言えます。

このように、社会科学の中では、様々な社会カテゴリの間の親密さや相互作用の発生しやすさ/しにくさを定量化しようとしてきた歴史があります。現在までの社会的距離の推移に関しては、細かな変化は観測されるものの、劇的な変化は発生していないという見方が主流となりつつあるようにも見受けられます(Smith et al. 2014)が、今後の研究が期待されます。

アフターコロナの「社会的距離」

ここまで、非常に簡単にではありますが、「社会的距離」について紹介してきました。新型コロナウイルス禍の中で、私たちの間の「物理的距離」は確実に離れました。さて、このような状況下で、今回の記事で紹介したような意味での「社会的距離」は拡がるのでしょうか、それとも縮まるのでしょうか?

社会的距離それ自体は、目には見えないものです。物理的に近接しているからといって、寛容さが増したり、相互作用が発生するわけではありません(例えば、満員電車の中を想像してみるとよいでしょう)。社会的距離は、床のテープに沿って列を作ったり、両手を広げることによってコントロールするものというよりは、私たちが「自然」に生活を送る中で、静かに変容していくものです。いま私たちは、物理的距離を超えて、「zoom飲み」などの電子的な手段を通して、親しい人たちとつながることができています。しかしながら、既存の社会関係の中での選択的なコミュニケーションがこのまま支配的になっていった時、その外部への視線はどう変容していくのでしょうか?コロナウイルス後の社会的距離の変化もまた、重要なリサーチテーマとなりうるでしょう。

【参考文献】

Robert E. Park. "The Concept of Social Distance As Applied to the Study of Racial Attitudes and Racial Relations." Journal of Applied Sociology 8 (1924): 339-344.

Emory S. Bogardus. "Measuring Social Distances." Journal of Applied Sociology 9 (1925) : 299-308.

Parrillo, V. N., & Donoghue, C. (2005). Updating the Bogardus social distance studies: A new national survey. The Social Science Journal, 42(2), 257-271.

Smith, J. A., McPherson, M., & Smith-Lovin, L. (2014). Social distance in the United States: Sex, race, religion, age, and education homophily among confidants, 1985 to 2004. American Sociological Review, 79(3), 432-456.

徳田剛. (2002). 「社会的距離」 概念の射程. ソシオロジ, 46(3), 3-18.



これまでの記事
vol.13「やぁやぁ、知ってる?」―噂と社会ネットワーク

vol.12 強いつながりの条件

vol.11 幻の社会的孤立化をめぐって

vol.10 闇のネットワーク、どこまで迫れるか?(後編)

vol.9 闇のネットワーク、どこまで迫れるか?(前編)

vol.8 「信頼」か、「しがらみ」か?――社会関係資本のダークサイド

vol.7 セレンディピティと社会ネットワーク

vol.6 友だちの数に限界はあるか?

vol.5 社会ネットワークと転職

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