Sansan DSOC研究員の前嶋です。「つながりに効く、ネットワーク研究小話」の第17回です。すっかり秋も深まってきました。この季節はちょうどヒヨドリの渡りのシーズンなので、住宅街でも「ヒーッ、ヒーッ」という声を耳にするかと思います。ヒヨドリはスズメよりも一回り大きく、赤みがかった頬がとてもチャーミングな鳥です。出勤中に騒がしい鳴き声が聞こえたら、ぜひ姿を探してみてはいかがでしょうか。
さて今回は、社会ネットワークと経済の関連性について書きます。このトピックは、計算社会科学の発展に伴い、現在特に研究が進んでいる領域です。
ネットワークの多様性と経済発展
伝統的に、ネットワーク研究の中では、弱いつながり、あるいは橋渡し的なつながりが、様々な面で個人や組織に利益をもたらすと考えられてきました。普段よく接触している集団以外から新規の情報がもたらされたり、異質な他者と出会うことでイノベーションが生まれたり、まだつながっていない二者の間を仲介することで「漁夫の利」を得られたりする可能性が高まるためです。そうした研究の歴史の概要は、以前こちらの記事にまとめた通りです。
しかしながら、弱い/橋渡し的なつながりに関する研究は、小規模のデータによって行われてきたため、ある国や地域全体を対象としたときに、経済状態や幸福度などと本当に関連があるのかは、わかっていませんでした。この研究課題に対して、大規模な電話通信ネットワークデータを用いて挑戦したのが、Eagleらによる2010年の研究です。
研究グループは、国全体での電話通信ネットワークデータを構築しました。すべてのつながりがりには地域iと地域jの間の通信量で重みがついており、これに基づいて各地域に対してシャノンのエントロピーを計算しました。エントロピーは、ある地域が多様な地域とまんべんなくつながっている時、大きくなります。逆に、一つの地域につながりが偏っているような場合、小さくなります。この指標によって、ネットワーク多様性を測定することができます。
経済発展の程度を測定する指標としては、イギリスの約32000の地域で算出されたIMD(Indices of multiple deprivation)と呼ばれる合成指標を用いています。IMDは所得・雇用・教育、健康・犯罪・住宅・環境などを合成した指標で、イギリス国内での相対的な経済発展の程度を示しています。研究グループはこの指標とネットワーク多様性の間の統計的な関連性を調査しました。
結果的に、地域のエントロピー=ネットワーク多様性が高いほど、つまり様々な地域とバランスよくネットワークを形成している地域ほど、IMDが高い、すなわち経済的に発展していることが明らかになりました。ネットワーク多様性とIMDの順位の相関はr = 0.73と非常に高い相関を示していました。ネットワーク構造は、地域の経済的発展の程度を映す鏡であることが示唆されます。…ただし、あくまでも相関関係であり、因果関係はこの研究からはわからないことに注意が必要です。
ネットワークと経済の関連に関する他の研究
この研究を嚆矢として、経済発展の程度とネットワーク構造やネットワーク上のポジションがどのように関連しているのか、日進月歩で研究が蓄積されています。以下に、そうした関心の論文へのリンクを示しますので、ご興味のある方はご一読をおすすめします。
さいごに
ここまでネットワーク構造と経済発展の関係について書きました。ところで、日本で同様の研究がどこまでできるでしょうか?日本の最重要課題の一つに「地方創生」がありますが、市区町村のような細かな地域単位での速報性の高い指標は、現在のところ不足しています。このような課題のもと、Sansan DSOCでは、日本の市区町村が間接的に関わっているビジネスパーソンの数を「ビジネス関係人口」として定量化する試みを進めています。現状はビジネス関係人口のランキング上位市区町村に対する定性的分析にとどまっていますが、実は今まさにビジネス関係人口と経済的な活性度との間の関連性を分析したレポートを作成しています。近日中に公開される予定なので、気になる方はぜひチェックしてみてください。
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