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「SocSci Meetup~社会科学をブートする~」イベントレポート

Sansan株式会社初の社会科学分野の勉強会 「SocSci Meetup~社会科学をブートする~」が開催された。 Sansan DSOC研究員の前嶋が、当日の熱量そのままに、イベントレポートをお届けする。

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SocSciとは

「Tech全盛の時代に、社会科学が立ち上がる。」

"SocSci"は、社会科学の有用性を徹底的に考えていくためのコミュニティである。ここで考えるべき問いは無数に存在する。AI時代に社会科学はどのような「価値」を生むことができるのか? 高精度の予測とは異なるデータの「意味」とはどこにあるか? 社会科学の膨大な研究蓄積はいかにして「生きた知」となりうるのか? プロダクト開発と社会科学が交差した時に何が起きるのか?

試み

Sansan DSOC R&Dには、社会科学系データサイエンティストのチームがある。主な業務としては、Sansan Labsという実験的なプラットフォームの製作や、データサイエンスレポートや学術論文の執筆、多彩な研究者との共同研究の推進がある。また、チーム内部で「社会科学系論文読み会」という自主的な勉強会を定期的に開催している。

buildersbox.corp-sansan.com

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クラウド名刺管理サービスを提供するIT企業で、なぜ社会科学的な視点が必要とされるのか? それは、名刺交換が、紛れもない「人」と「人」が行う社会的相互行為であるからだ。名刺交換の積み重ねは、社会的ネットワークを構成する。ゆえに、社会科学的な考え方、手法との親和性が非常に高い。

「社会科学系データサイエンティスト」という肩書きは、日本ではまだ珍しいものだ。しかし私たちは、社内での仕事を通して、社会科学的な知識や視点はTech企業でこそ輝くという確信を持っている。この感覚を一つの巨大なムーブメントにまで成長させるべく、今回のイベント開催に至った。1社だけではなく、様々な人・組織を巻き込んでいくことで、全く新たな試みが生まれてくることを期待したからだ。

初回はまず、DSOC R&Dで社会科学的知識がサービス開発にどう活かされているかを紹介することを考えた。

多様性

しかしながら、十把一絡げに「社会科学」と言っても、領域内部の多様性はあまりにも大きい。そのため、今回のイベントでは計算社会科学と呼ばれる定量的なアプローチから、エスノグラフィーのような質的なアプローチまで、できるだけメソッドが幅広くなるように外部スピーカーを招聘した。

このような多様性を貫く一つの軸として設定したのが、「社会科学はどう役に立つのか?」という問いだ。外部スピーカーとしてアカデミックな領域で活躍されている方々を招聘したが、今回はプロダクト開発上でどのように役立ちうるかという視点を盛り込んでもらうよう依頼した。

反響

SocSci MeetUpイベントページの公開後、3時間ほどで定員30人を超過した。最終的には140人を超える応募をいただいた。これは当社開催のイベントの中でも異例の集客数である。しかも、イベント当日はほとんどキャンセル者が出ず、用意した座席は隙間なく埋められた。

報告者への質疑応答はsli.doを用いて行ったのだが、総計で41にのぼる質問が出た。しかも、テクニカルな指摘や補足情報などのコメントなど、レベルが高く、私自身も答えに窮するものが少なくなかった。

内容

SocSci MeetupはR&D研究員の西田によるイントロダクションから始まり、「SocSci はいろんな領域で社会科学に関わる人全員が歩み寄り、コラボレーションし、互いに切磋琢磨した場としたい。今日のイベントから、現状の社会課題に対して、社会科学の力を用いて解決してく流れを強めたい」というイベントに込めた思いを語った。

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わたくし前嶋の発表「枯れない古典の社会科学的思考」では、Sansan Labsで公開している「ビジネスマンタイプ分析」というサービスの背景に、100年前の社会科学の古典の影響があり、社会現象を捉える視点はそうした古典的な研究のうちに既に含まれているということを述べた。

speakerdeck.com

同じくR&D研究員の真鍋からは「人脈が支える経済ネットワーク」というタイトルで報告がなされた。主題は、ネットワークデータを扱うことの必要性とその困難である。社会関係資本と呼ばれる「つながりから創発される利益」がビジネス上どのような価値を持っているかを紹介すると同時に、「肥満の伝染」に関する論文と、それに対する批判を紹介し、ネットワークに由来する効果を正確に見積もることの困難についても紹介した。

speakerdeck.com

東京大学先端技術センターの臼井翔平さんからは、「情報過多社会における接触情報の偏り」という題で報告をしていただいた。「見たいものだけを見る」という選択的接触のメカニズムが、TwitterやNewsアプリなど、異なるメディアでどのように作動しているかについて、実証的な研究を引き合いに出しながら比較検討された。

www.slideshare.net

東京大学大学院の杉山昂平さんには、「なぜIT企業はエスノグラファーを雇ったのか?」というタイトルで、ルーシー・サッチマンとダナ・ボイドという2人のエスノグラファーのテック企業でのキャリアを紹介しつつ、エスノグラフィーがどのようなビジネス上の価値を生み出したかについての発表をしていただいた。

www.slideshare.net

懇親会では、参加者や登壇者がお互いにどのような課題意識を感じており、それが社会科学的知見を活かすとどう解決されるのか等、いたるところで活発な議論が巻き起こった。

参加者の中には、社会科学系のバックグラウンドを持った様々な業界の方々がおり、同じような信念を持つ人々の存在を肌で感じられた。

どこへ行くのか

SocSciは、学会でも勉強会でもない、新しい研究発表・情報共有のカタチを模索していきたいと考えている。一方で、堅い研究に立脚しつつ、社会科学の有用性についての考えを深化させていく、という基本路線は崩してはならないだろう。

究極的には、1社の利益だけはなく全体最適を志向し、社会科学系のバックグラウンドを持った人たちが様々な場所で活躍するための下地を作りたいと思っている。

今後もSocSciの動向に注目していただきたい。

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