Sansan Tech Blog

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Econ Fiesta 2 を開催しました!

こんにちは!DSOCの西田です。
昨年のベストバイだなと自負するスニーカーが2足あったにもかかわらず、もったいなくて箱からも出せていないのに、最近また今年のベストバイだなと思う厚底スニーカーを買ってしまいました。ちゃんと履こうと思います。

さて、今回は先日開催したEcon Fiesta 2の開催レポートをお届けします。

Econ Fiestaとは、株式会社サイバーエージェントさんと弊社で共催しており、経済学者がテック企業をはじめ産業界でどのような研究や働き方をしているのかを紹介していくイベントです。第1回目のイベントは昨年の8月に開催し、共催している2社から計4つの研究紹介を行いました。

buildersbox.corp-sansan.com


今回は、株式会社エコノミクスデザインより、坂井豊貴さまと今井誠さまをゲストとしてお招きし、計3つの発表を行いました。
DSOC 研究開発部のイベントでは初のチャレンジとなる弊社のスタジオから配信しました!

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実際の配信画面。今回の衣装はスタッフコートです。

以下、各発表の概要とポイントを紹介いたします(敬称略)。

メカニズムデザインのビジネス実装


発表者:
坂井 豊貴(慶應義塾大学教授、Economics Design Inc.取締役、デューデリ&ディール・チーフエコノミスト)
今井 誠(デューデリ&ディール取締役、Economics Design Inc.代表取締役、ディアブル代表取締役)

概要:
メカニズムデザインは、オークションの制度設計やレーティングの制度設計の研究分野である。インターネット時代になり、この分野のビジネス実装が活発化してきた。世界的な成功事例としては、Googleの検索型広告にメカニズムデザインの学知の活用などがある。日本において、メカニズムデザインのビジネス実装を行っている事例として、デューデリ&ディールの不動産オークションの事例と経済学のビジネス実装のためのプラットフォームとして、Economics Design Inc.(EDI)の取組みを発表する。EDIでは、どのような形でビジネスの武器としての経済学を配っていくか?など、経済学者とビジネスマンの双方の目線からから紹介する。本発表では、不動産オークションと武器としての経済学を学ぶ”The Night School”の事例について、紹介する。

ポイント:
私の知る限りでは、経済学を学ぶことができる教育事業を展開されているのは株式会社エコノミクスデザインさん以外にないのではないかなと思います。そして、坂井さんはじめ超一流経済学者の方々が講師陣という素晴らしい環境です。大学では、「行動経済学」、「計量経済学」といった科目ごとに縦割りで学びますが、こちらのスクールでは経済学を実務に活かすために必要な知見を全て活用したオリジナル授業が提供されており、個人的にとても内容が気になります。

また、コンサルティング事業では、オーダーメイドでオークション設計等をされています。目的に応じて細部のデザインまで設計されているとのことで、次回はそのTipsなど伺ってみたいなと思いました。スーツのように、オークションもオーダーメイドの時代ですね。坂井さん曰く「オークションを活用したらいいのに」と思うシチュエーションはまだまだあり、例えば、IPO(Initial Public Offering 新規株式公開)の際の値決めでの活用も考えられるとのことで非常に興味深かったです。

身近なところからはじめるマーケットデザイン

www.slideshare.net

発表者:
冨田 燿志(株式会社サイバーエージェント AI事業本部 AI Lab リサーチサイエンティスト)

概要:
2012年にはマッチング理論とその実践に関する功績によりアルヴィン・ロスとロイド・シャープレーが、2020年にはオークション理論とその実践に関する功績によりポール・ミルグロムとロバート・ウィルソンがノーベル賞を受賞するなど、ミクロ経済学・ゲーム理論の知見を用いて実際の市場・制度を設計する「マーケットデザイン」は近年注目を浴びており、日本でもマーケットデザインの社会実装への取組みが進められている。だが、こうしたマーケットデザインの取り組みは、一般の私たちからはどこか遠いところで行われているものと感じられてはいないだろうか。 本発表では、「論文の投稿前に社内で相互にレビューする仕組みを作る」という身近な問題に発表者がマッチング・マーケットデザインの知見を活かして取り組んでいる実践例を紹介する。マーケットデザインはどこか遠いところでのみ取り組まれるものではない、一般の私たちから身近なところでも実践できるものであるということをお伝えしたい。

ポイント:
社内の論文採択率を上げることを狙いとして、論文の投稿前に社内で相互にレビューするアプリケーションを開発した事例を紹介いただきました。その背景には、メンバーが増える中でコメントを求めることが難しくなってきたことやリモートワークによる距離の遠さがあったとのことでした。これらの課題でアプリケーションを開発することで解決している点がテック企業ならではの取り組みで素晴らしいと思いました。

マッチングには、TTC(Top Trading Cycle )アルゴリズムを用いることで、各人が偽の希望順位を申告しても得することがなく、結果として論文とレビュワーのマッチングが望ましいもの(他のマッチングを作り直しても望ましいものはできない、みんなが納得するもの)となる性質を満たしています。こちらのアルゴリズムは、論文だけでなく、説明資料やコードのレビューにも活用することが可能であるため、研究者だけでなく、エンジニアをはじめビジネスパーソンのどなたでも活用できます。

データサイエンスの文脈で経済学が取り上げられることが多いですが、経済学の理論を学んでいる方でもテック企業にて強みを活かすことができるキャリアがあることを示していただきました。そして、アプリケーション開発のスキルを身に付けるとさらに活躍の幅が広がるというメッセージにとても共感しました。

The Economics of Business Networks: Estimation and Applications at Scale

発表者:
Juan Martínez(Sansan株式会社 DSOC 研究開発部 SocSci Group 研究員)
小松 尚太(Sansan株式会社 DSOC 研究開発部 SocSci Group 研究員)
西田 貴紀 (Sansan株式会社 DSOC 研究開発部 SocSci Group Manager/研究員)

概要:
ビジネスの出会いは偶然生じるものもあれば、戦略的に相手を選んで出会うこともある。その背後にあるメカニズムを明らかにすべく、ジョンズホプキンス大学のAngelo Mele教授と共同研究を行っている。本発表では、その研究内容を紹介する。具体的には、ネットワークの統計モデリングであるERGM(Exponential Random Graph Models)を拡張し、名刺アプリ「Eight」のネットワークデータを用いてモデルを推定することである。応用したモデルをもとにしたシミュレーションの活用例も合わせて紹介する。

ポイント:
昨年の秋頃から本格的に取り組み始めた研究で、ついにお披露目となりました。ネットワーク×経済学の研究は盛んに行われるようになってきましたが、実証においては既存の手法であると扱えるデータのサイズに限界があるなど、研究を進める上でのハードルがいくつもあります。本研究ではクラスター構造を考慮したERGM推定アルゴリズムを高速化させ、大きなネットワークに対しても応用可能にした点が大きな貢献です。その実装に苦しんだ姿がスライドからも見てとれるかと思います(笑)

さらに、このアルゴリズムを用いた反実仮想シミュレーションにも取り組んでいます。日々ビジネス課題に向き合う中で、「現実にまだ生じてないような事象が起きた時にどうなるか調べて欲しい」という依頼が少なくないので、このアルゴリズムの開発に取り組む価値があると考えています。まだ課題も多いですが、ビジネス課題の解決やEBPM支援といった文脈で応用した事例を話せる日が来るように、粘り強くこの研究に向き合っていきます。

イベント後記

今回のイベントは250名を超える方々に申し込みいただき、当日は165名の方に参加いただきました。弊社イベントの中でみても申し込みが多いイベントであり、この分野に関心が集まっていることを感じることができました。参加者数だけでなく、イベント中と懇親会での議論も盛り上がっていました。個人的には懇親会に学生の方が参加してくださり、経済学を活かすキャリアについての質問などがあったことがとても嬉しかったです。学生の頃に、経済学を活かすようなキャリアの話はなかなか聞けなかったので、このようなイベントで多くの情報を発信していきたいです。

さらに、イベントに参加してくださった方のアンケートで、約40%は大学時代に経済学を学んだことのない方とわかりました。今後もこの取り組みを続け、これまで経済学に触れていなかった方々にも経済学の価値を伝えていきたいです。

次回も必ず開催したいと考えています!我こそは経済学を活用した事例を話したいという方はぜひお声がけください!

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