Sansan Tech Blog

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▲The Prism of Creativity ▽ vol.9 Creative Cliff Illusion [経営学編]

f:id:sansan_nissy:20190107153214j:plain こんにちは、Sansan DSOC 研究員の西田です。 最近はルアーで黒鯛を釣る(チニング )にハマっており、多い時は週2回のペースで釣りに行っていました。潮位を読むことが非常に大事な釣りです。また、インテリアにも目覚めてきました。いつかTom Dixonの照明が欲しいです。

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さて、長らく間が空いてしまった連載ですが、今回は経営学編と題して、Creative Cliff Illusionという現象についてご紹介します。

Creative Cliff Illusionとは、アイデアの思考過程において人は徐々にクリエイティブではなくなっていると感じてしまうが、実際にはその過程を通じてクリエイティブなアイデアを考え出せている(もしくは、初期と変わらずクリエイティビティを維持できている)という現象のことです。

みなさんも一人でアイデアを考えているときに行き詰まり、全然いいアイデアが思いつかないなーと感じてしまうことはないでしょうか?そんなとき、実際はクリエイティブなアイデアが思いついているのかどうかを検証した研究(Lucas et al (2020) "The Creative Cliff Illusion”*1)をご紹介します。

Creative Cliff Illusionは起こるのか?

筆者らはCreative Cliff Illusionに関する実験を合計8回行い、現象として観察されるのか、メカニズムはどういうものかを検証しました。 この記事ではその中から印象的であった実験の結果をいくつか紹介したいと思います。

まず、言葉の整理ですが、この研究におけるクリエイティブであるとは「目新しい(novel)」かつ「役に立つ(useful)」というアイデアです。また、どれだけアイデアを思いつけるのかは生産性と定義しています。

次に、実験の概要です。まず被験者を集め、「ある慈善団体が地域社会からの寄付を増やす方法についてのアイデア」を考えるという5分間のタスクに5回取り組みます。そのタスクに取り組む前に、それぞれの回ごとに「どれくらいクリエイティブなアイデアを考えられるか?」という自身のクリエイティビティに関する予測(「全くクリエイティブでない」を-50、「とてもクリエイティブである」を50として評価)をしてもらいます。この予測と実際にタスクに取り組んで考えたアイデアに対する被験者間の評価との差を見ていくことで、Creative Cliff Illusionが生じているかを確認します。もし、Creative Cliff Illusionが起きていれば、予測した結果は回を追うごとに下がっていき(クリエイティブでないと評価されていき)、一方で、被験者間での評価は上昇していく(クリエイティブであるという評価)を得ていくことになります。

この基本的な実験の結果が下図のStudy 1です。

黒の線が被験者間での評価の平均を表し、灰色の線が事前予測の平均です。回を追うごとに予測結果は下がっていきますが、実際の被験者間での評価は向上していきます。この差は統計的に見ても有意であることが示されており、Creative Cliff Illusionが生じていることがわかりました。

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Lucas et al (2020) Figure1

さらに、同様の実験を寄付について専門知識がある人を被験者として行っており、その結果が上図のStudy2です。こちらでもStudy1ほどの二つの評価の差はみられませんが、予測結果と実際の評価の差異があることが確認できました。

また、被験者自身のクリエティブの評価タイミングをタスクを行う前から、タスク終了後へと変更した実験がStudy3です。こちらでも同様の結果が見られ、被験者自身の評価と他者からの評価には乖離があることがわかります。

プロフェッショナルは陥らない?

Creative Cliff Illusionが観測されたところで、この現象にかかる人の特徴とどういったメカニズムが考えられるかをさらなる実験を通して明らかにしています。

筆者らは、クリエイティブな仕事をしている人はそうでない人に比べて、クリエイティブなものを考えることに長けており、独自の思考法を身に付けていたり、自身がクリエイティブであると思っている人も多いのではないかと考えました。つまり、私生活や仕事において、クリエイティブなことに関わるかによって、Creative Cliff Illusionに陥る度合いが異なるのではないかということです。

これを検証すべく、被験者に「どれくらいの頻度でクリエイティブであることを求められるか?」という質問をし、「頻繁に求められる」「時折求められる」「全く求められない」の3つのカテゴリーに被験者を分けました。その上で、Study1と同様の実験を行った結果が下図です。上段から「頻繁に求められる」「時折求められる」「全く求められない」の順で結果が示されています。

図を見て明らかな通りですが、日々クリエイティビティを求められる人はCreative Cliff Illusionに陥らず、自身の予測した評価と周囲からの評価に差はありません。しかし、クリエイティビティを「時折求められる」「全く求められない」人たちはこれまで見てきた結果と同様に、Creative Cliff Illusionが生じています。

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Lucas et al(2020) Figure2

この結果の解釈については、深く考察されていないですが、筆者らの仮説通り、経験に基づいて正しく判断ができるということなのでしょう。ということは、デザイナーの方々で行き詰まった場合、周囲の評価もある程度予測できているから本当に困っているということになりますね(笑)

では、どういったメカニズムでCreative Cliff Illusionが生じるのでしょうか?

この問いを検証するために、筆者らはコメディスクールで漫画に対して面白いキャプションをつけるというタスクに取り組む実験を行いました。ここでは実験の詳細は省き、結果だけ紹介します。

実験の結果、「いいアイデアは考え始めてすぐに思いついたアイデアである」と考えるような人ほど、タスクに向き合う時間は短くなり、その結果アイデアとクリエイティブなアイデアを思いつく数が減少してしまうというメカニズムが見えてきました。

すなわち、アイデアを考えていく中で「クリエイティブなものが思いつかない...」と思い込んでしまう人ほど、タスクに向き合えなくなり、結果としてクリエイティブなものが生まれづらくなるということです。しかし、実際にはCreative Cliff Illusionが生じるように、自身でクリエイティブなものだと思えなくとも、考え抜くことでクリエイティブになっているケースがあるのです。

Creative Cliff Illusionが教えてくれること

ここまでの結果を整理すると、以下の通りです。

  1. アイデアを思考する過程で、クリエイティブに関する自身の評価と客観的な評価が乖離するCreative Cliff Illusionが生じる。
  2. 日頃からクリエイティビティを求められない人において、顕著にCreative Cliff Illusionが生じる。
  3. アイデアを思考する過程で、「クリエイティブなものが思いつかない...」と思い込んでしまう人はアイデアの思考を止めてしまう傾向があり、結果としてクリエイティビティを発揮できなくなってしまう

この結果を踏まえると、アイデアを思考する過程で、「クリエイティブなものが思いつかない」と諦めて、思考過程を短くしてしまうのは得策ではなく、自身の評価に振り回されず、最後まで考え抜くことが大切であることがわかります。なぜなら、Creative Cliff Illusionのように自身の評価と周囲の評価は一致しないことがあるからです。

例え話で考えると、服のデザインを考えるとして、素人がデザインを考えていき、短い時間でもういいアイデアが思いつかないと考えるのをやめてしまうのではなく、プロのデザイナーが考えに考えていいデザインを生み出していくように、しっかりと時間をかけて考えることが大切になります。

考える時間を確保するだけではなく、確保した時間の間は集中して考え抜くことはできそうに思えて、非常に難しいものだなと思います。私も研究員という職種の中で、日々アイデアを考えることが主な仕事ですが、優秀な研究者と思う人は常に目の前の問題を考えていて、すぐにいいアイデアが思いつかないと諦めてしまうような難問でも考え続けている印象があり、この研究結果のインプリケーションと通じるところがあると思いました。「逃げずに考え切る!」が今回の教訓です。

次回もいつになるかわかりませんが、クリエイティビティにまつわる研究をご紹介したいと思います! 過去記事もぜひ読んでみてください!

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*1:Lucas, B. J., & Nordgren, L. F. (2020). The creative cliff illusion. Proceedings of the National Academy of Sciences, 117(33), 19830-19836.

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