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▲The Prism of Creativity ▽ vol.6 競争とクリエイティビティ[計算社会科学編]

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どうも、西田です。
最近ハマっているYouTuberのこばしり。さん風に書き始めてみました。
前回のブログの冒頭にも書いた、某Cから始まるブランドのハーネスを着てとある百貨店の店舗に行くと、入店2秒でハーネスの購入を薦められました。とてもすごいレコメンドエンジンだと思いました。

さて、今回はThe Prism of Creativityの連載第6回目の記事となります!最近は同じチームのJuanさんのゴリゴリ経済学のブログが界隈で話題になったので、ちょっと経済学っぽいクリエイティビティに関する論文が読みたくなりました。ということで、今回は競争環境に目をつけたクリエイティビティの論文をご紹介します! 今回ご紹介するBalietti らの論文*1は、経済学っぽさもあれば、心理学っぽさ(実験がメインなので)もあったので分類が難しかったのですが、著者らは計算社会科学分野で活躍されている方々なので、計算社会科学編としました!

彼らはArt Exhibition Gameという描いた絵を評価しあうラボ実験方法を開発し、その実験結果からクリエイティビティと競争環境の関係性を明らかにしました。


Art Exhibition Game

まずは、Art Exhibition Game について説明します。

この実験では絵を描くツールにnodeGameというツールを用います。
下図のように、このツールを使ってパラメーターを変更しながら顔を再構築する形で絵を描いていきます。まさに「福笑い」をインタラクティブにできるツールです。パラメーターの組み合わせは、5.2×10^43通りにも及び、もはや顔とは言えないくらいの抽象的な絵までを描けるものになっています。パラメーターで絵を描けることで、パラメーターのベクトルを用いて作品間の差異を客観的に評価できるようになります。クリエイティビティはどうしても主観的な評価になるので、この仕掛けはとても面白いものだと思いました。

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Balietti et al (2016) Supporting Information Figure 2.より引用

そして、9人のグループでこのツールで絵を描きながら下記のフローで実験を進め、この一連の流れを30ラウンド繰り返していく中でデータを収集していきます。本研究では、9人のグループで実施するこの実験を1セッションとし、16セッションを実行しています。

  1. ツールを使って絵を描く(50~80秒)
  2. 3つある展示会(実験内で作品を発表する仮想の展示会)を選択して提出する(20秒)
  3. 被験者どうしで評価をしあう(30秒)
  4. 評価の高い作品が展示され、被験者の中で共有される(15秒)

1人あたり3つの作品を評価します。展示会に展示される基準は3人の評価者から0~10点の評価を受け、平均5点以上の作品となります。どの展示会に提出するかはランダムに決められる群と選択した展示会において次のラウンドでその展示会の作品の評価者になりやすいという群を用意したようですが、以後紹介する分析結果に差は無かったようです。

さらに、このゲームをする際に、競争環境(COM)と非競争環境(non-COM)の2つのグループに分けます。
競争環境(COM)においては、同じ展示会に展示された人数は少ないほど、高い報酬がもらえますが、非競争環境(non-COM)では、展示会に展示されたら一律の報酬がもらえます。つまり、競争環境においては、1人勝ちするような評価の高い作品となれば、高い報酬が得られるということになります。

最後に、この実験中に描かれた作品のパラメーターのデータを用いて3つの評価指標を算出し、競争環境がどのようにクリエイティビティに影響を与えるかを分析します。

  1. Innovation(前回ラウンドで提出された作品の平均パラメーターベクトルからのユークリッド距離: どれだけ前回と異なる/斬新な作品か?)
  2. Diversity(同じラウンドで提出された作品の平均パラメーターベクトルからのユークリッド距離: どれだけ同ラウンド内で異なる/斬新な作品か?)
  3. Personal Change(前回ラウンドのパラメーターベクトルからのユークリッド距離を個人ごとに計算したもの: 前作とどれだけ異なる/斬新な作品を作ったか?)


ここまでがラボ実験の概要になります。そして、この結果の妥当性を高めるためにオンライン実験も実施しています。Amazon Mechanical Turk を通じて採用した620人の評価者によって、下記の4つの項目での評価もデータとして収集します。評価者はランダムに40作品を割り振られ、下記の項目を0~10のスケールで評価します。

  1. Creativity
  2. Abstractness
  3. Interestingness as a face
  4. Overall appeal or quality

競争が生み出すクリエイティビティ

さて、気になる結果を見ていきましょう!
まず、ラボ実験の結果です。下図Aより、ラウンドを重ねるごとによって、Innovation、Diversity、Personal Changeのどれもが高くなっているのわかりますが、20ラウンドあたりからInnovationとDiversityが飽和してきていることがわかります。作品はクリエイティブであるかどうかで判断されるため、被験者は目新しい作品を書く意識が高まり、InnovationとDiversityが助長されたと言えます。

さらに、下図BとCは競争環境がInnovationとDiversityにどのような影響を与えたのかを示しています。なんと競争環境では、InnovationとDiversityが約20%高い結果となっています!つまり、被験者は前回ラウンドとも異なり、かつ同ラウンド内でも差をつけるべく、クリエイティブな作品を描いていました。

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Balietti et al (2016) Figure 1.より引用

加えて、競争環境によって被験者は他者と差をつけようと行動するという仮説を検証すべく、Relative Diversityという指標を用いて検証した結果が下図です。

Relative Diversityとは、同じラウンドの他のセッション(グループ)との差異(Between Diversity)と同じラウンドで同じセッション(グループ)の中での差異(Within Diversity)の差で定義されます。Relative Diversityが正の場合(Between Diversity > Within Diversity)、同じグループ内で同じような作品を作る傾向にあります。同様に、Relative Diversityが負の場合(Between Diversity < Within Diversity)、同じグループ内で異なる作風にしようという傾向が強いことになります。

下図を確認すると、競争環境ではより同じグループ内で異なるように創作活動をしていることがわかります。


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Balietti et al (2016) Supporting Information Figure 15.より引用

そして、最後にオンライン実験の結果です。

下図Aより、ラウンドを重ねるごとに抽象的な作品が増えてくることが読み取れます。さらに、下図Bよりその傾向は競争環境にある作品に強く現れていることがわかります。一方で、クオリティ(Overall)を見ると、非競争環境の方が高くなっています。これは、Interestingness as a face(Face)のスコアも非競争環境の方が高いことから、ラボ実験に参加していない人にとっては絵として理解しやすいものが高いスコアを得られる傾向にあるということです。

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Balietti et al (2016) Figure 2.より引用

以上の結果をまとめると、競争環境にある場合、どんどん斬新な作品を作っていく傾向にあり、他者との差異が意識され、抽象的な作品が仕上がることがわかりました。もはや顔ではなくなるところまで、作品が抽象化していったという結果は面白いなと思いました。

過去の記事では、1人の時間を大切にすることでクリエイティブなアイデアが思いつきやすいという結果を紹介しましたが、今回は逆に他者を意識する環境でよりクリエイティブになれるという研究結果でした。他者の作品を見てしまうとどうしても引っ張られてしまうこともありますが、ただ参考にするだけではなくて競争を強く意識づけした環境をつくると同質化は避けられるようです。ファッションショーの作品も、同じ服飾デザイナーどうしが強く競争を意識した結果、抽象的な衣服デザインにつながっているのかもしれないなと思いました。競争はつらく厳しいと思うかもしれませんが、これまで見たことない斬新なアイデアが欲しいときは活用していきたいですね。

今回は以上!
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*1:Balietti, S., Goldstone, R. L., & Helbing, D. (2016). Peer review and competition in the Art Exhibition Game. Proceedings of the National Academy of Sciences, 113(30), 8414-8419.

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