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【つながりに効く、ネットワーク研究小話】vol.11 幻の社会的孤立化をめぐって

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Sansan DSOC研究員の前嶋です。「つながりに効く、ネットワーク研究小話」の第11回です。真夏のピークが去ったように感じられますが、天気予報士によれば、まだまだ厳しい残暑が続きそうとのことです。

今回は、「社会的孤立化」について書きます。私たちの生きる現代社会は、ますます孤立化を深め……おっと、このような紋切り型の話をするつもりはありません。この記事の目的は、アメリカの社会学界で起きた「社会的孤立化」をめぐる"騒動"を通して、「つながり」を測定することの難しさと面白さを紹介することです。

調査でつながりを測る

アンケートベースの社会調査によって個人のパーソナルネットワークを測定する手段は、主に2種類の方法があります。ひとつは、つながっている相手の名前を挙げてもらい、その人の属性や関係性などを詳しく聞いていく「ネーム・ジェネレータ方式」、もうひとつは、医者・政治家など、つながっている相手の社会的属性を挙げてもらう「ポジション・ジェネレータ方式」です。一般的に前者のほうが後者よりも情報量は多くなりますが、同時に調査にかかる時間や回答者の負担などのコストも大きくなります。

このうち、ネームジェネレータ方式を採用している代表的な調査が、総合的社会調査(General Social Survey, 以下GSS)です。GSSはアメリカ合衆国で1972年から延べ30回以上行われている大規模な無作為社会調査です。この調査の中には、「あなたにとって重要な問題について話した人は誰か?」という質問項目があります。

コア・ディスカッション・ネットワーク

「重要な問題について話した人は誰か?」という質問文は、ネームジェネレータ方式の調査では一般的な文言です。相談する間柄で構成されたネットワークのことをコア・ディスカッション・ネットワーク(core discussion network)と呼びます。日本版の総合的社会調査JGSSでも、2003年にこの質問文を用いたネームジェネレータ方式の質問項目が盛り込まれています。

ここで抽出しようとしているのは、親しい間柄=強いつながりで結ばれた人物に関する情報です。直感的には、重要なことを相談する人とは親しい関係性を築いていると考えることができそうです。GSSでこの質問項目が設けられたのは1985年,1987年, 2004年の3回です。したがって、ある人が持つネットワークの特徴を、時点間で比較することができます。

急激な社会的孤立化?

2006年に「アメリカにおける社会的孤立化(Social Isolation in America)」というタイトルの研究論文が出版されました(McPherson et al. 2006)。1985年と2004年のGSSデータを比較した論文です。その内容は、重要な問題を相談する人の平均値=平均ネットワークサイズが、約20年間で2.94人から2.08人に約30%も減少し、特に「1人も相談する相手がいない」という人が10.0%から24.6%に増えたという、大変ショッキングな内容でした。

この研究結果が真実であれば、アメリカに住む人々が20年間で急激に「社会的孤立化」したことになります。研究者らは、この結果に戸惑いながらも、労働時間・通勤時間の増加やインターネットの普及などが原因ではないかと推測しました。

ちょうど、政治学者ロバート・パットナムの『孤独なボウリング(Bowling Alone)』(Putnam 2000)がベストセラーとなっていた時代です。これは、アメリカにおいてボランティア団体や政治団体といった自発的コミュニティが衰退していると主張した書物です。民主主義国家の代表たるアメリカで「絆」の弱体化が懸念される中で、この論文は衝撃をもって受容されました。

原因は、調査設計のミス?

この論文は、他の研究者から大いに注目を集め、分析結果をめぐって激論が交わされました。

まず批判を投げかけたのが、都市社会学の大家クロード・S・フィッシャーでした。フィッシャーは、上記の結果は実際の社会的現象を反映しているというよりも、調査設計のミスやヒューマンエラーに起因する人為的現象(artifact)ではないかと指摘しました(Fischer 2009)。

実は、そもそもコア・ディスカッション・ネットワークの発想は彼が北カリフォルニアで行った調査に源流があります。したがって、古くから人々のつながりについて熟知している彼から物言いがつくのは、当然とも言えます。

具体的な批判内容は次の通りです。2004年のGSSは調査時間が長く、調査対象者の疲労が考えられること。コーディングのミスが疑われること。ネットワークの質問の直前に置かれた所属組織について質問の負担が大きく、ネットワークに関する質問は面倒を避けるために人数を過少申告した可能性があること…等々。

Paik and Sanchagrin(2013)は、この結果が一部の調査者の影響であることを定量的に評価しています。つまり、一部の調査者が、早く調査を終わらせるために、ネットワークサイズが0になるように仕向けたのではないかという指摘です。

新たな発見

最近、この問題に関して大きなブレイクスルーがありました。ネットワークサイズの急激な減少という結果は、単なる調査のミスではなく、「政治的孤立を反映している」とする説です。どういうことでしょうか。

この説を提唱したLee and Bearman(2017)は、2004年のGSSが大統領選の時期に実施されたことに注目しています。共和党のジョージ・W・ブッシュと民主党のジョン・ケリーの激戦は、未だに記憶に残っている方も多いのではないでしょうか。大統領選と近い時期に調査が行われたことが、結果に影響したというのです。

「重要な問題」は刻一刻と変わる

GSSにおけるネットワークサイズは「重要な問題を相談する人」の数だったことを思い出してみてください。さて、皆さんにとって「重要な問題」とは何でしょうか?「重要な問題」という語で連想されるものは、人によって、あるいは時と場合によって異なります。例えば、今の私にとって重要な問題とは「AWS Athenaに投げなければいけない長大なSQLクエリ」のことですが、来週には「北海道で立ち寄るべき観光地」になっていることでしょう。

Lee and Bearman(2017)の主張は、大統領選が近い時期に調査されたが故に、2004年のGSSの調査対象者は「重要な問題」という語から「政治的な問題」を想起したのではないか?というものです。

ネットワークサイズの減少=政治的孤立化の反映?

しかし、これだけでは単なる仮説に過ぎません。彼らは実際に統計的な分析を行いました。すると、調査対象者によって報告されたネットワークサイズは、大統領候補同士の討論会が近づくにつれて下がり、それ以降は上がっていくことが確認されました。

興味深いのは、空間的な政治的分極化―――つまり、その地域の中で同じ政治的イデオロギーを持った人同士が近隣に居住する程度―――が顕著な地域ほど、ネットワークサイズ減少の効果は見られなかったことです。また、特定の政党に積極的コミットする人は、そうでない人に比べて、ネットワークサイズが大きかったことも分かっています。つまり、周囲に同じ政治的イデオロギーの持ち主がいることが明瞭な場合、政治的なイシューについて議論しやすくなる一方で、そうでない人は、政治的な話題を個人間で行うことを忌避するということになります。

総合すると、実は「重要な問題を相談する人が少なくなった」というデータから浮かび上がってくるのは、アメリカの社会的孤立化などではなく、政治的な問題を「重要な問題」として捉えながらも、政治的対立を恐れ、それを知人間で話題に上げることを忌避するという、アメリカの「政治的孤立化」だったのです。

さいごに

個人的には、この一連の騒動の面白さは、データや分析結果の妥当性を検証する中で、全く別の視点からの知見がもたらされたことにあると思っています。

また、それ以上に社会調査の難しさも示しています。アンケート調査での質問文は、調査実施者の意図と離れて、その時の社会的コンテクストの影響を受けて解釈されることがあります。この騒動からは、分析の際、データがどのように生成されたか、そのプロセスについて十分に知悉しておくべき、という教訓が得られます(Martin 2018)。

実は、コア・ディスカッション・ネットワークの測定上の妥当性については、他にもまだまだ面白い話があるのですが、そろそろ本業のデータ分析に戻らなければなけないので、またの機会にお話しようと思います。

自分の分析結果も、人為的現象(artifact)でなければよいのですが…。

【参考文献】

  • Fischer, C. S. (2009). The 2004 GSS finding of shrunken social networks: An artifact?. American Sociological Review, 74(4), 657-669.

  • Byungkyu, L., & Bearman, P. (2017). Important matters in political context. Sociological Science, 4, 1-30.

  • Martin, J. L. (2018). Thinking Through Statistics. University of Chicago Press.

  • McPherson, M., Smith-Lovin, L., & Brashears, M. E. (2006). Social isolation in America: Changes in core discussion networks over two decades. American sociological review, 71(3), 353-375.

  • Paik, A., & Sanchagrin, K. (2013). Social isolation in America: An artifact. American Sociological Review, 78(3), 339-360.

  • Putnam, R. D. (2000). Bowling alone: America’s declining social capital. In Culture and politics (pp. 223-234). Palgrave Macmillan, New York.

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