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B2B 企業ブランドとは何か vol.3

こんにちは。DSOC研究開発部の真鍋です。
今回は、B2Bブランドに関する論文の例として、Brand equity in the business-to-business market (Industrial Marketing Management, 33(5), 371–380, Bendixen, M., Bukasa, K. A., & Abratt, R.) という論文を、以下に簡単にまとめてみたいと思います。

リサーチクエスチョン

この論文のでは以下のリサーチクエスチョンにアプローチしました。

  • P1: ブランド価値は、B2B 市場において、ブランドの価格プレミアムを支払う意思として表れる
  • P2: 買い手に、ブランドに対するロイヤルティがある場合、ブランドを他の人々に推奨し、さらに同社の別の製品に対する購入意向を有する
  • P3: 知覚品質は、ブランド価値を生む、主要な要素である
  • P4: B2Bブランド認知の主要なソースは、展示会である
  • P5: 購買意思決定を行うグループはそれぞれ、ブランドに対し、様々なレベルの重要度を認識し、それぞれ様々なコミュニケーションチャネルを求める
方法
  • 対象のブランド: 中電圧屋内サーキットブレーカーパネルのメーカー
  • 調査対象: 南アフリカの産業企業の購買部門。企業は工場や電力供給会社など。3 年以内にパネルを購入した企業が対象
  • 分析方法: アンケート調査による分析。コンジョイント分析による解析。
  • 回答者: 上記対象企業から、54 名。
  • コンジョイント分析: 回答者は、「ブランド」「価格」「納期」「技術」「交換部品のリードタイム」という属性の様々な要素(全部で 16 個) を、好ましい順、または、購入したいと思う順に、並び替える。各人のランキングデータを集計し、コンジョイント分析により、各属性の部分効用値を算出する
  • その他の質問: 回答者は、ブランドの他の製品を購入したいか、他人に推奨したいか、ブランド認知の手段、ブランド価値の理由、などについて、1-5 段階で回答する
結果
  • コンジョイント分析: 購入に対する効用値は、「納期」「価格」「技術」「ブランド」「交換部品」の順。「ブランド」は 4 番目。
  • ブランドの効用を価格の効用と比較した場合、平均価格の 6.8 %、無名のブランドの 14 % 分の価値があり、これはブランドプレミアム価格とみなせる (高いブランドの製品は、無名ブランドの価格の 14 %上乗せと、同等の効用)。
  • 好ましいブランドと他製品への関心の高さの間には、関連がみられる (Kruskall–Wallis test)。また推奨意向も、好ましいブランドと関連がある。
  • ブランドの知覚と最も関連が高い要素は、「品質」であった。次に「信頼」「パフォーマンス」と続く。
  • ブランド認知のソースは、「技術コンサルタント」が最も高く、次に「営業」。展示会は 4 番目。
わたしの所感
  • Bendixen らはこの研究で、サーキットブレーカーパネルという産業色の極めて強く、成熟した市場であっても、買い手は「ブランド」に効用を示すこと、また、それは価格の効用と比較した場合、プレミアム価格価値を持つとみなせることを示しました。ブランドがプレミアム価格として表れることは、B2C 市場、消費者向け商品ではよく知られた事実ですが、B2B においてもそれが成り立つと示したことは、興味深い結果かと思います。
  • ブランドは、他の製品にも波及すること、他者へ推奨されるという効果を持つことも示されています。特定の製品の効用に止まらず、波及効果があるため、重要性の増す結果と言えます。
  • ブランド価値の形成には品質が最も重要である結果は、B2Bのブランディングにおいて、製品の品質の高さの訴求、また、そのイメージを落とさないことが重要であるということを示唆しています。ブランド価値と関連が深い要素が、「品質」「信頼性」「パフォーマンス」というのは、産業市場らしい結果であるようにみえます。
  • この研究においては、ブランド認知は、展示会よりも、技術コンサルタントを通した認知が、より効果的であるという結果でした。B2B ブランドにおいては専門家による風評などが、相対的に重要であることを示しています。
  • 本結果は、南アフリカの、サーキットブレーカーパネルの購買企業というやや特殊な調査対象集団であり、さらに 54 名の回答者という決して多くないサンプルからの研究結果です。当然、この論文での主張が、広く一般的に成り立つとは限りません。ただ、このようなそれほど複雑ではない調査方法で、ブランドのプレミアム価値や、価値形成要因、ソースなどを、調べ、定量化できるという本論文の提案は、学ぶところが多く、応用範囲も広いように思われます。エビデンスのない状態で、ブランドマーケティングを行なっている企業や業界も多いのではないでしょうか。自社が属する市場に対し、この研究のような調査設計を行い、定量分析をすることで、より効果的なマーケティング活動を行うことができるようになるものと思われます。

次回は、日本のブランド調査データを用いて、ブランド力の高いB2B企業がマージンをより多く得ているかどうかを定量分析した研究結果を、ご紹介したいと思います。



▼このシリーズの過去記事
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