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B2B 企業ブランドとは何か vol.2

こんにちは。R&D の真鍋です。B2B ブランディングについての連載第2回です。

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前回に引き続き、以下のレビュー論文を読み、要約しながら、B2B ブランドについて、考えていきたいと思います。素人の駄文ですが、ご笑覧ください。

  • Author: Sheena Leek, George Christodoulides
  • Title: A literature review and future agenda for B2B branding: Challenges of branding in a B2B context
  • Journal: Industrial Marketing Management, 40, 830-837
  • Year: 2011

さて、ブランドは、 B2B 企業のステークホルダーにどのような効果を与えているのでしょうか。次のような分析結果が、これまで実証的に示されてきました。なお、これらは全て 2001-2011 年に行われた研究です。

  • ブランドは製品やサービスの品質にポジティブな印象を与える
  • 製品のイメージが確立され、競合製品との差別化が可能になる
  • 価格へのプレミアム価値の付加
  • 競合に対する優位性の獲得
  • 入札の場合、入札の候補に入りやすく、意思決定における合意形成に役立つ
  • ある製品カテゴリーをブランドとして確立できた場合、他の製品カテゴリーにも波及する
  • 参入障壁を高くすることができる
  • 強いブランドを持っている場合、企業価値が向上する
  • リファラルを得られる

さらに、購買側にとっても、次のような利点があることも、わかっています。

  • ブランドは、企業や企業の製品にまつわる総合的な価値を示しているため、購買者の選択の際の自信に繋がる
  • 購入の際の満足度を高める
  • 購買の際のリスクや不確実性を減少させる

これらの研究は主に米国で実施されたものであり、また、データは、特定の状況や業種に限られているため、全て普遍的に当てはまるわけではないかもしれません。 しかし、上記のような、ブランディングの利益やメリットが実証的に示されているにも関わらず、多くの B2B 企業はブランド戦略にそれほど積極的ではないようです。その理由について、著者らは次のように述べています。

  • とはいえ、B2C に比べ、研究や確立された理論が少ない
  • 本質的なものではないと受け止められている
  • 一般に、製品の数が多いため、それらの全てについてブランドを考慮するのはそもそも現実的ではない
  • 財政上の利益をもたらすかどうかが定かではない
  • ブランディングは長期的な投資戦略だが、現在の情勢において短期的な収益を犠牲にした不確実な長期的戦略は歓迎されにくい

結局、B2B ブランドが、ステークホルダーからどのように受け止められ、B2B 文脈でどのように用いられ、また、ブランドへの投資に対してどの程度の利益があるのかなどについて、理論的な土台が欠如しているため、ブランド戦略を実行するのが困難になっている側面があると、著者らは言います。 B2B においてブランドがどのように機能しているのかを理解するためには、その購買プロセスにおける作用機序を、よく理解する必要がありそうです。

意志決定過程におけるブランデイング

企業間取引は、個人の購買ではなく、組織的な購買です。そこでは通常、複数のステップにわたる意志決定を経て、購買が決定されます。したがって、B2B ブランドは、様々な段階での意志決定それぞれに対して、その価値を伝達する機能を持っている必要があります。意志決定段階とは、例えば、仕様やスペックの決定、サプライヤーの探索、提案の評価などです。 また、意志決定をする部署単位や組織構造についても、理解されている必要がありますし、何が決定の決め手となっているのかを分かっている必要もあるでしょう。 購買決定の基準、購買決定の過程、決定をする組織の構造などを理解し、考察した上で、ブランド価値がどのように作用するのかを調査する。そのような研究を経て、B2B ブランド戦略の理論的な土台が成立すると考えられます。

B2B における購買の評価基準

組織が購買を決定するとき、製品やサービスはどのような基準で評価されているのか、また、ブランドはその評価にどの程度寄与するのか。このことはブランドへの投資を決める上で、重要な事実となります。

Bendixen ら(2004)の研究では、B2B 購買の意志決定において、ブランディングは 16 % の重要度しか持たないと見積もられています。購買に重要な要因は、納期 (27%), 次が価格 (24%)、技術 (19%) で、ブランディングはその後に続きます (16 % というのは、それほど低くない寄与率のようにも思えます)。 他の研究でも、ブランディングは価格やロジスティクス、サービスなどの要因の「次」に位置する要因とされています。 ところで、納期や価格はファクトですが、サービスの品質や技術といった要因は、必ずしもブランドと完全に独立した要因、というわけではありません。その情報をどのような表現で、どのような層に伝えるか、というマーケティング戦略と関わっているからです。購買プロセスにおいてこのような要因が上位の重要度を占めているという事実は、サービス品質や技術を効果的に伝えるためのコミュニケーションの一つとして、ブランド戦略を帰着させることに繋がるでしょう。

次回は、Bendixen らの研究をもう少し詳細に見ていき、B2B においてブランドが高いとされている企業がどのような性質を持っているのかについて、述べてみたいと思います。

参考文献

  • Sheena Leek and George Christodoulides (2011). A literature review and future agenda for B2B branding: Challenges of branding in a B2B context, Industrial Marketing Management, 40, 6, 830-837, https://doi.org/10.1016/j.indmarman.2011.06.006.
  • Bendixen, M., Bukasa, K. A., & Abratt, R. (2004). Brand equity in the business-tobusiness market. Industrial Marketing Management, 33, 371–380.

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