こんにちは。DSOC R&D, SocSci*1 メンバーの真鍋です。
わたしは現在、Sansan で、B2B 産業における企業の「ブランド」に関する研究をしています。
1. 研究の背景
Sansan では BBES というサービスを展開しています。
このサービスは B2B 企業のブランド力を、企業周囲のステークホルダーたちの印象評価から定量評価するというものです。
わたしはこの得られた評価数値が、どのような意味を持っているのかについて、分析をしております。
その過程で、「そもそも B2B 企業のブランドってなんだっけ」という根本的な疑問を抱くようになりました。その点を理解していないと、背景に基づいた説得力のある分析が行えないような気がしました。
そこで、B2B 企業のブランドについての調査を始めました。このブログは、その調査の記録になろうかと思います(続けばの話ですが)。あまりいないと思いますが、もしも興味のある方がいらしたら、よろしくお付き合いください。
何かを調べる際には、教科書や、レビュー論文から入るのが王道かと思います。今回は、B2B 企業ブランドのレビュー論文をご紹介したいと思います。
2. B2B 企業ブランドのレビュー論文
Google Scholar で次の論文を探してきて、読んでみました。その内容の、ゆるい要約をしながら、自分の考えなども述べていきたいと思います。
Author: Sheena Leek, George Christodoulides
Title: A literature review and future agenda for B2B branding: Challenges of branding in a B2B context
Journal: Industrial Marketing Management, 40, 830-837
Year: 2011
2.1 「ブランド」について
まず、著者らは、「ブランド」は主に「商品」から、特に、日用消費財から、生まれた概念であると言います。ブランディングは商品に加えられる付加価値と見なされてきたということです。
実際、私たちが通常考える「ブランド」も、代表的には洋服や、あるいは家電などもそうかもしれないですが、メーカーである企業のロゴやデザインが商品に付加されることで、商品の価値が上がるようなものとして、考えられていると思います。仮に同じ T-シャツであっても、ブランドのロゴが付いている場合とそうでない場合で、価格が何倍も違う、というような...
そもそも、「ブランド」の定義とはなんでしょう。
調べてみると、定義は、研究者によっても、様々あるようです。
例えば、David A. Aaker という著名なブランド研究者は、1991 年の「Managing Brand Equity」という本の中で、ブランド価値を「商品やサービスを通して、提供される価値に付加される、ブランドの名称やシンボルに結びついた資産」と定義しています。ここで、ブランド価値とは、ブランドを資産として捉えた時の呼び方です。
また、American Marketing Association という組織では、「ブランドとは、ある商品やサービスを、他の商品やサービスとは異なるものとして識別する名前、用語、デザイン、シンボル、またはその他の機能」と、「差別化」に力点を置いて定義しています。
一般的なブランド論は本ブログの趣旨ではないためあまり深入りはしない(その力もなくてできない)ですが、ブランドは、商品にブランドとしての付加価値をつけることで、差別化を行い、より高い価値を提供できるようにするためのもの、というイメージで良いかと思います。
なお、論文内では、de Chernatony, Leslie と Malcolm McDonald の「Creating powerful brands in consumer, service and industrial markets」という本から「ユニークで好ましい気配を拡張する、機能的および感情的な利得の集合」と説明が引用されています。
この定義には「感情」が明記されており、ブランドとは機能的なメリットだけではなく、消費者の「感情」に訴えかけるものであるという面が、強調されているように感じます。
さて、以上は、一般的な「ブランド価値」、すなわち商品に付随するブランド価値の説明ですが、それでは B2B 産業におけるブランドは、どのような性質をもつのでしょうか。
著者らは、これまで、ブランディングは、B2B 市場にはほとんど関係のないものと考えられてきたと言います。
なぜなら、B2B 取引という組織的な意思決定のプロセスは、とても合理的に進行すると伝統的に考えられていたため、「ブランディング」のような感情に訴えかける価値付けは、ほとんど関与しないように思われたためです。
確かに、企業間取引や企業の購買の過程では、複数の人の意見が参照された上で稟議が進み、通常は上役である責任者によって採決されます。消費者向け商品と違い、自分だけで購買を決定できることは稀で、したがって個人がその企業の製品やサービスに感じる、高級感やワクワク感、あるいはそれを好ましいと思う気持ち、などといった、「個人的感情」が意思決定に入り込む余地は少なく、その製品のスペックといった、多くの人を納得させる客観的な要素、および価格や納期の制約要因などの「合理的理由」により、購買が決定されるように思えます。そこでは、感情を揺りうごかすような、ブランド戦略の有効性は確かに低そうに思えます。
しかし、著者らによれば、最近の研究により、B2B 市場においても、企業は、ブランディングによって、ステークホルダーとの間に、感情的な結びつきを発展させ、「信頼」を生み出す必要があることがわかってきている、ということです。
では、B2B 企業のブランドとは、どのような性質を持っているのでしょうか。B2C とは、戦略をどのように変える必要があるのでしょうか。次回は、このレビュー論文を読み進めていき、それらの疑問に踏み込んでいきたいと思います。
続く。
*1:社会科学をバックグラウンドとしたデータサイエンティストからなるチーム