Sansan Tech Blog

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ハードスキル、ソフトスキル、そしてメタスキル

Bill One 開発組織 ( *1 ) のグループマネージャーをしている山口です。

日々、マネージャーの役割として数十名の仲間と話す機会があり、成長観点でスキル向上の相談を受けることがあります。単にスキルといっても業務を遂行するためには多種多様なスキルが必要です。それゆえ、どのスキルに向き合うか悩んでいる人が多いように感じます。本記事はそのような人のサポートになればと思い執筆しています。

本記事ではスキルを便宜的にハードスキル、ソフトスキルと分類し、現代のエンジニアに要求されるスキルを考察します。そして、メタスキルという「スキルを俯瞰したスキル」の重要性について触れます。

※ 本記事で扱う各スキルの概念は学問分野、ビジネス分野において、あいまいな使われ方をしています。あくまでも、とある組織のマネージャーが日頃の業務を通して得た経験からの整理としてご覧ください。

ハードスキル、ソフトスキル

スキルを分類する際にハードスキル、ソフトスキルと分類することがあり、本記事でもそれを採用します。

ハードスキル、ソフトスキルとは?

ハードスキル、ソフトスキルという言葉は1960年代後半にアメリカ陸軍によって生み出されました( *2 )。そこでは、ハードスキルは「機械を使う技能」、ソフトスキルは「機械を使わない技能」として使用されています。つまり、「機械のような専門的な知識や技術を使う能力」か、「使わない能力」か、で分類しています。

では、現代のビジネスにおけるハードスキル、ソフトスキルはどのように解釈すると良いでしょうか?ビジネスにおけるスキルを「仕事において業務を遂行するための能力」と表現すると、ハードスキルは「仕事において業務を遂行するための専門的な能力」、ソフトスキルは「仕事において業務を遂行するための専門的ではない能力」と表現できます。

スキル: 仕事において業務を遂行するための能力
ハードスキル: 仕事において業務を遂行するための専門的な能力
ソフトスキル: 仕事において業務を遂行するための専門的ではない能力

理解を深めるため、エンジニアを例にそれぞれのスキルの具体的な項目を挙げます。

■ ハードスキルの例 (エンジニアの場合)
  • プログラミング
  • クラウド
  • セキュリティ
  • 機械学習
■ ソフトスキルの例
  • コミュニケーション
  • チームワーク
  • リーダーシップ
  • 問題解決

ハードスキルが「専門的な能力」に対して、ソフトスキルは「専門的ではない能力」となるので、ソフトスキルはエンジニアかどうかは関係のない項目が増えます。また、ハードスキルと比べてソフトスキルは数値化の困難な項目が多いので、測定や伝承が難しいです。

ハードスキル、ソフトスキルのどちらが重要?

このようにハードスキル、ソフトスキルに分類することでスキルに対する見通しは良くなりますが、業務を遂行する際のスキルは必ずしもいずれかに分類できるものではなく、現実的にはまじりあっていることが多いです。それゆえ、 どちらか ではなく どちらも 重要となります。

図1はハードスキル、ソフトスキルのイメージ図です。スキルを分類するという観点では図1(左側)のように対立形式で表現されることが多いですが、業務遂行、スキル向上という観点では図1(右側)のようなイメージを持つと良いと考えています。

図1: ハードスキル、ソフトスキルのイメージ

現代のエンジニアはソフトスキルが要求されている

2001年に「アジャイルソフトウェア宣言」という概念が提唱されてから、エンジニア界隈ではアジャイル開発が主流になりました。もちろんプロジェクトの特性により、アジャイル開発が一概に良いとは言えませんが、デファクトスタンダードだと理解しています。

図2: アジャイルソフトウェア開発宣言 日本語原文( *3 )

この「アジャイルソフトウェア宣言」では下記のように書かれています。

左記のことがらに価値があることを認めながらも、私たちは右記のことがらにより価値をおく。

これは前述の整理を適用すると、左記はハードスキル、右記はソフトスキルと見ることができます。つまり、現代のエンジニアはハードスキルだけではなく、当然のようにソフトスキルが求められています。

メタスキル = スキルを早く習得、使いこなすスキル

このように、昔よりも多くのスキルが求められることに加え、変化が大きく先の予測がしにくい時代(VUCA( *4 )と呼ばれている)では「スキルを早く習得するスキル」、「スキルを使いこなすスキル」の重要性が高まります。

そのようなスキルを「メタスキル」と呼ぶこととします。ハードスキル、ソフトスキルを俯瞰して見るため「メタ(高次の)」という単語を用います。

メタスキル: スキルを早く習得、使いこなすスキル

メタスキルの具体的な項目を挙げます。日本語だと狭義となることも多いので、あえて横文字で表記し、理解のために対応する日本語を記載しています。

■ メタスキルの例

・セルフ・アウェアネス (≒ 自己認識)
・セルフ・コンフィデンス (≒ 自信)
・エンパシー (≒ 共感)
・レジリエンス (≒ 再起力、回復力)
・...

自己、相手、状況を認識する項目が含まれます。例えば、セルフ・アウェアネス(≒ 自己認識)のスキルが高ければ、自己の長所、短所、性格的特徴を知ることで、不足しているハードスキル、ソフトスキルを伸ばし、既に習得しているそれぞれのスキルを最大限に発揮することができます。

図1(右側)にメタスキルを追加すると図3となります。メタスキルはハードスキル、ソフトスキルの土台というイメージを持つと良いと考えています。

図3: ハードスキル、ソフトスキル、メタスキルのイメージ

メタスキルは抽象的で捉えづらいスキルではありますが、それゆえにまずはメタスキルを意識することが大切です。そして、業務遂行を通して経験として蓄積するのが良いでしょう。

まとめ

  • スキルを便宜的に分類することでスキルに対する理解が深まる。
  • 現代のエンジニアは当然のようにソフトスキルが要求されている。
  • スキルへの要求が多く、VUCAな現代ではメタスキルを高めることも重要。

付録 (参考文献)

ハードスキル、ソフトスキルの分類については indeed の「ハードスキルとソフトスキルの違いは?( *5 )」、スキルの実例については Asana の「職場におけるハードスキルとソフトスキルの違い( *6 )」を参考にしています。

メタスキルについては日本プロジェクトマネジメント協会の「オンラインジャーナル/今月のひと言 - メタスキル( *7 )」の定義に加え、Future of Sourcing の「Meta-Skills: What Are They and How Are They Relevant to the Procurement Function of the Future?( *8 )」を参考に独自に表現し直しています。

スキル全般については「幼児教育の経済学( *9 )」、「問題発見力を鍛える( *10 )」のような書籍からもヒントを得ています。

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