Sansan Builders Blog

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Sansanにまつわる「ある数式」について

1. 導入

こんにちは。Sansan株式会社 DSOC 研究開発部の大垣です。
普段はプロダクトを成長させるべくデータサイエンスや機械学習に関わる研究開発をしています。個人的には数学が好きなので(ある程度)高度な数学が有用になる研究開発のテーマを日々探しています。

突然ですが、これらのグッズを見たことはあるでしょうか?

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これらは弊社が作るノベルティなのですが、一見ノベルティとは思えないTシャツがあると思います。

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そうです、このナゾの数式が入ったTシャツです。


数式1:
\begin{equation}
\sum^{6}_{n=1} \sum^{n}_{\mu=1} \sum^{\mu}_{v=1} \cos\dfrac{2\pi vn}{\mu}
\end{equation}

ノベルティに書かれた数式には3つの総和  \Sigma やコサイン関数  \cos が含まれており、一見すると単純でない数式ですが、実はとある整数です。そして、それはSansanにちなんだ数字になっています。以下の等式がその答えです。(クリックすると等式が見れます。自分で考えてみたい方向けに隠してあります。)

等式1:


本日はこの等式について、3つのステップに分けて(数式の右側の総和  \Sigma から順番に)解説していきます。

2. 数式の解説

2-1. ステップ1

ここが最も本質的なステップです。以下の命題を示します。
命題1:
\begin{equation}
\sum^{\mu}_{v=1} \cos \dfrac{2 \pi v n}{\mu} =
\begin{cases}
\mu \quad \mbox{(} \mu \mbox{が} n \mbox{を割り切るとき)} \\
0 \quad \mbox{(} \mu \mbox{が} n \mbox{を割り切らないとき)}
\end{cases}
\end{equation}


この命題により、数式1は整数であることがわかります。また、「 \mu nを割り切るかどうか」で分岐しているため、 数式1は約数という概念と関係していることもわかります。

では命題1を示しましょう。

(i)  \mu n を割り切るとき

 \dfrac{n}{\mu}は整数になるため、
\begin{equation}
\cos \dfrac{2\pi v n}{\mu} = \cos 0 = 1
\end{equation} となり、
\begin{equation}
\sum^{\mu}_{v=1} \cos \dfrac{2\pi v n}{\mu} = \sum^{\mu}_{v=1} 1 =\mu
\end{equation} です。

(ii)  \mu n を割り切らないとき

まず以下の補題を証明します。
補題:
\begin{equation}
\sum^{\mu}_{v=1} \exp{\left( \dfrac{2\pi i vn}{\mu} \right)}= 0
\end{equation}


この補題の証明は次の通りです。
簡単のため、 \zeta = \exp{\left( \dfrac{2\pi i n}{\mu} \right)} とおくと
\begin{eqnarray}
\sum^{\mu}_{v=1} \exp{\left( \dfrac{2\pi i vn}{\mu} \right)}
& = & \sum^{\mu}_{v=1} \zeta^{v}
= \sum^{\mu}_{v=0} \zeta^{v} - 1 \\
& = & \frac{\zeta^{\mu+1} - 1}{\zeta - 1} - 1
= \frac{\zeta - 1}{\zeta - 1} - 1 \\
& = & 0
\end{eqnarray} と示せます。ここで、3番目の等号において因数分解の公式
\begin{equation}
(\zeta - 1) \sum^{\mu}_{v=0} \zeta^{v} = \zeta^{\mu+1} - 1
\end{equation} を、4番目の等号において  \zeta^{\mu}=1 を用いました。
補足として、 \zeta = 1 だと途中で分母が  0 になってしまうので、「 \mu n を割り切らないとき」という条件は必要です。

この補題より、オイラーの公式
\begin{equation}
\exp{\left(i \theta \right)} = \cos{\theta} + i \sin{\theta}
\end{equation} を用いると、命題1を
\begin{eqnarray}
\sum^{\mu}_{v=1} \cos \dfrac{2\pi vn}{\mu}
& = & \sum^{\mu}_{v=1} \mathrm{Re} \left( \exp{\left( \dfrac{2\pi i vn}{\mu} \right)} \right) \\
& = & \mathrm{Re} \left( \sum^{\mu}_{v=1} \exp{\left( \dfrac{2\pi i vn}{\mu} \right)} \right) \\
& = & 0
\end{eqnarray} と示せます。

ちなみに、ここでは命題1をオイラーの公式を用いて証明をしましたが、三角関数の議論に閉じた証明も可能です。

2-2. ステップ2

まず、自然数 nに対して \sigma (n) を「 1 から  n までの約数の総和」と定義します。これは約数関数とよばれる関数です。例えば、 10 の約数は  1,2,5,10 の4つなので、
\begin{equation}
\sigma(10)=1+2+5+10=18
\end{equation} です。
約数関数を導入すると以下の等式が成立します。ちなみに、この等式はWikipediaの約数関数のページにも書かれています。約数関数 - Wikipedia
命題2:
\begin{equation}
\sum^{n}_{\mu=1} \sum^{\mu}_{v=1} \cos\dfrac{2\pi vn}{\mu} =
\sigma(n)
\end{equation}


つまり、この命題は数式1において右2つの総和までが約数関数と等しいということを意味しています。
三角関数と約数関数はそれぞれ由来する分野が異なる(三角関数は幾何、約数関数は代数に由来する)ことを踏まえると、両者が結びつくこのような等式があるのは興味深いことです。実際のところ、三角関数は代数学(数学の一分野)の研究においても、とても重要な役割を果たします。

命題2の等式は、  \sum^{n}_{\mu=1} \sum^{n}_{\mu=1, \, \mu \mid n} ( \mu n を割り切る部分) と  \sum^{n}_{\mu=1, \, \mu \nmid n} (  \mu n を割り切らない部分) の2つに分けて、各々に命題1を適用することで、以下のようにして得られます。
\begin{equation}
\sum^{n}_{\mu=1} \sum^{\mu}_{v=1} \cos\dfrac{2\pi vn}{\mu} =
\sum^{n}_{\mu=1, \, \mu \mid n} \mu + \sum^{n}_{\mu=1, \, \mu \nmid n} 0 =
\sigma(n)
\end{equation}

2-3. ステップ3

命題2より、最初の数式は「 1から 6までの約数関数の総和」に等しいこと
\begin{equation}
\sum^{6}_{n=1} \sum^{n}_{\mu=1} \sum^{\mu}_{v=1} \cos\dfrac{2\pi vn}{\mu} =
\sum^{6}_{n=1} \sigma(n)
\end{equation} がわかります。
そして、 1から 6までの約数関数を計算すると
\begin{eqnarray}
\sigma(1) & = & 1 \\
\sigma(2) & = & 1 + 2 = 3 \\
\sigma(3) & = & 1 + 3 = 4 \\
\sigma(4) & = & 1 + 2 + 4 = 7 \\
\sigma(5) & = & 1 + 5 = 6 \\
\sigma(6) & = & 1 + 2 + 3 + 6 = 12
\end{eqnarray} です。なので、これらをすべて足し合わせると
\begin{eqnarray}
\sum^{6}_{n=1} \sum^{n}_{\mu=1} \sum^{\mu}_{v=1} \cos\dfrac{2\pi vn}{\mu} & = & \sum^{6}_{n=1} \sigma(n) \\
&=& 1 + 3 + 4 + 7 + 6 + 12 \\
&=& 33
\end{eqnarray} となり、目的の等式を得ることができました。(3が2つ並んでSansanです。)

3. まとめ

一連の解説を整理すると、等式1
\begin{equation}
\sum^{6}_{n=1} \sum^{n}_{\mu=1} \sum^{\mu}_{v=1} \cos\dfrac{2\pi vn}{\mu} =
33
\end{equation} が成立する要点は

  1. 右2つの総和  \Sigma までで、 n の約数の総和になる(命題2)
  2.  1から 6までの自然数に対して、約数関数の総和が 33になる(ステップ3)

の2つにまとめられます。

この等式はDSOCの他の研究員が気づいた等式でして、今回の記事ではその解説をしました。また数学をテーマに、データサイエンスの話だったり、面白いと思う数式の話だったり、何か書ければと思います。



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