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R&D 社会科学班の論文読み会 vol.4

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DSOC R&D Group の真鍋です。
Sansan DSOC で行なっている、主に社会ネットワークに関する論文読み会のレポート第 4 弾です。昼ごはんを食べながらやっています。
メンバーは前嶋と戸田です。
これまでは Sansan mimi blog で連載をしておりました。

今回は、最初に、人の「つながりの消失」についての論文が紹介されました。



論文 ①

Reorganization and Tie Decay Choices

Adam M. Kleinbaum, Management Science 64(5) 2219-37, 2018

問題意識・目的

状況が変わると、人の結びつきは、あるものは残り、あるものは消失する。その消失は、関係性、その人の立場(構造的な位置)、パーソナリティによって影響されるだろう。

データ

アメリカのMBAの学生。秋学期と冬学期のつながりを考察。秋学期から冬学期にかけて、クラスやスタディグループがランダムに変更される。変更されることによってつながりがどうなるかを把握。

仮説と検証結果
  • 相手がネットワークの仲介的立場(複数のグループにコネクションのあるような存在。有力的な存在)であるほど、つながりは消失しにくくなる。
  • マキャベリズム的なパーソナリティ(目的のために手段を選ばない) の人ほど、上記傾向はさらに強まる。そのようなパーソナリティはより選択的につながりを維持している。
  • お互い双方向につながりを感じていると、つながりは消失しにくい。
  • 自己管理ができていない人ほどつながりは消失しやすい。
みんなの感想

つながりの消失の傾向に、構造的特性だけではなくてパーソナリティを加えているのが面白く、特に「自己管理」を導入しているのが興味深い。確かに、自分を省みても、人間関係を維持するにはある種の管理能力が必要であり、それがないと人間関係は失われがち。つまり人間関係にはケアが必要で、伝統的なケアのシステム(年賀状やお歳暮など)の機能が弱体化している昨今、とりわけ個人の裁量に依るところが大きくなっているのかもしれない。



論文 ②

Lexical shifts, substantive changes, and continuity in State of the Union discourse, 1790–2014

Rule, A., Cointet, J. P., & Bearman, P. S. (2015), Proceedings of the National Academy of Sciences, 112(35), 10837-10844.

問題意識・目的

1790 年から 2014 年の一般教書演説をテキスト解析し、言語や概念が変化する中で、意味カテゴリーを同定する方法論を作成。どのカテゴリーの語が多く使われるか、その変遷を見ることで、第一次大戦を境にアメリカの政治意識が大きく変わっていることを明らかにした。

方法論

一般教書演説は、「どのイシューが重要か」についての同時代的な認識を反映していると考えられる。ただし、従来のテキスト分析器では、意味の時系列変化をうまく扱えなかった。このため、共起関係のネットワーク構造から、語の意味のカテゴリーを同定するという共起アプローチが用いられる。これは「語は他の語との関係の中で意味を獲得する」という認識論に基づく。これにより、語の意味変容の理由が不明瞭な文脈でも、関係性に着目することで変化の意味を捉えやすくなる。

結果

共起構造から、「国内政治」「生産」「国土」「社会経済」「軍事」「移民」「国政術」「外交」「犯罪」の 9 つのクラスタが抽出された。t 年と t+1 年での平均変化率 (cos類似度) は、大統領の変更に関わらず安定的に 0.3 で、一般教書演説の語彙は安定的に推移していることを示す。もっとも非連続的な変化点は1917 年だった。国政術と政治経済のカテゴリが、外交と国内政治によって置き換えられた。

みんなの感想

政治意識の変遷が、語彙の意味カテゴリの割合の推移で示せるという興味深い論文。共起『構造』から『意味』について理解することができる点が面白い。様々なケースに適用できそうな内容。軽い文化研究などでは、例えば J-POP の歌詞の推移を見ることで、日本の文化意識の変遷が見れるかもしれないなど。



論文 ③

A SOCIAL CAPITAL THEORY OF CAREER SUCCESSA SOCIAL

Seibert S Kraimer M Liden R, Academy of Management Journal, 2001 vol: 44 (2) pp: 219

要約

ネットワーク構造と社会資本の関係、また、社会資本とキャリア上の成功を調べた論文

論文の目的

社会ネットワークの複数の概念 (弱い紐帯、構造的空隙、資源としての社会関係) を、「キャリアの成功との関連性」という枠組みで統合した上で、社会資本とキャリアの成功の関係を調べる。社会ネットワークと社会資本の関係を問い直し、どのような構造が、より重要な社会資本にアクセスできるのかを調べている

方法
  • サンプル: 448 人、平均年齢 35.6 歳, ビジネススクールや工科大学を卒業してから平均13 年経過した人たちに対するアンケート調査。自分のキャリア形成を助けてくれた人の名前と、その人との関係性の強さを答える。また、キャリアの成功度(出世、給与、自身の仕事への満足度) についても回答。
  • この調査結果からネットワークを作成し、それぞれの構造的空隙指数を計算している。
  • 情報や資源(アドバイスやサポート)へのアクセシビリティ: Spreitzer’s six item scale で調査
  • キャリアに対する援助、メンタリング: Dreher and Ash’s global mentoring scale で調査
  • キャリアの成功度: 出世、給料、個人の満足度の 3 項目
  • 調整項: 性別, 婚姻, 配偶者の労働, MBA 保有か否か、居住エリア, マネージメント職かどうか, 会社規模, ネットワークサイズ
分析
  • 構造方程式 (LISREL 8)
  • 比較のためのモデル:
    • 調整項のみで outcome を説明するモデル
    • 部分的介在、または介在のないモデル
結果
  • 仮説モデルは、調整項のみを用いたモデルよりも、当てはまりの指標が高い
  • 部分的介在モデルの方が、仮説モデルよりも良い当てはまり指標を示した
  • 非介在モデルは部分的介在モデルよりも悪い指標を示した
  • 弱い紐帯, 構造的空隙は「他の組織との」接触数、「高い地位」との接触数と正の関連があった
  • 他の組織との接触と、情報へのアクセスビリティの間に、正の関係が見られた
  • 高い地位の人との接触数と、情報及びリソースへのアクセスビリティ、キャリア援助には関連があった
  • 情報へのアクセスビリティは、リソースへのアクセスビリティを通して、キャリアの成功と関連があった
  • キャリアへの後援、メンタリングの程度はキャリアの成功と関連があった
考察

ネットワーク構造は社会的資源をもたらし、弱い紐帯数が多い人、構造的空隙にいる人は、他の組織や高い地位との接触数が多い。
社会関係資本は、情報やリソースへのアクセスビリティといった実際的な利益と結びついており、さらに、それらの利益はキャリアの成功と連関している

みんなの感想

メンタリングと成功が関連している点が興味深い。成功する人は、弱い紐帯を利用して高い地位の人と繋がるのみならず、繋がるだけではダメで、「メンタリング」を受けることが必要であることを示唆している。構造的空隙の位置にある人や、高い地位の人に対し、弱い紐帯から強い紐帯に移行することができる人というのは、パーソナリティとも関わる何かがあるのかもしれない。




過去の記事:R&D社会科学班の論文読み会 vol. 3

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