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【つながりに効く、ネットワーク研究小話】vol.19 趣味は人々をどうつなげるか

f:id:sansan_maejima:20191220100905p:plain Sansan DSOC研究員の前嶋です。「つながりに効く、ネットワーク研究小話」の第19回です。寒いですね。寒さのせいか近所の猫の姿も見られず、物寂しい日々が続きます。オイルヒーター頼りの生活を送っているので、電気代に戦々恐々とする毎日です。

はじめに

今回は趣味についてのお話です。みなさまの趣味はなんでしょうか。私の趣味は野鳥撮影、料理、けん玉、ゲーム(スプラトゥーン)、海外ドラマ鑑賞、旅行、スノーボード、ボードゲーム、ダーツ、自転車、深夜ラジオ、猫カフェ、散歩などです。もし私と趣味が同じ方がいたら、ぜひ一緒にいかがでしょうか。

…「一緒に」?

趣味は人々をつなげる

趣味の中には、一人で黙々と行うタイプの活動もありますが、他者との相互作用を伴う活動も少なくありません。私の趣味の中で言えば、スノーボードやボードゲームなどは、もっぱら友人と一緒に行っています。

たとえ一人のアクティビティであっても、趣味サークルやインターネットでそれについて「同好の士」と語り合ったり、情報交換することもあるでしょう。私自身も、趣味を通じて出会った友人は数多くいます。このような趣味を媒介としたつながりは、日本語で「趣味縁」とも呼ばれます。

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最近では、インターネット上での出会いも増えてきました。婚活マッチングアプリの中に、「趣味でつながる」ことをアピールするものも少なくありません。

オンラインデーティングサイト"OkQupid"の大規模データを分析した研究によれば、「喫煙習慣」や「犬に対する見方」が一致していると、お互いにマッチングがしやすいことが明らかになっています(Lewis 2016)。

結婚行動には従来より学歴や職業などでのマッチングが重視されることがわかっていました(Kalmijn 1998)が、これらの要因を考慮しても、趣味嗜好が一致することは社会ネットワーク形成に影響を及ぼすようです。

今回は、趣味嗜好(=文化的嗜好)がどのようにして社会的なつながりを形成していくか、言い換えると「趣味が人々をどうつなげるか」についての研究潮流を紹介します。

文化的嗜好から社会ネットワークへの変換

この記事の冒頭で、趣味はしばしば他者との相互作用を伴うと書きました。アメリカの文化社会学者のポール・ディマジオは「文化的な興味を共有することは、社交的な会話の共通の内容である。芸術の消費は、見知らぬ人に何かを話す機会を与え、知人関係が友情へと発展するために必要な社交性を促進する」(Dimmagio 1987, p.443)と書いています。

つまり、文化的嗜好には、それを媒介として様々な社会関係を形成する機能があります。文化的嗜好は、社会ネットワークという「社会関係資本」に変換されていきます。社会関係資本とは、簡単に言えば、利益を生み出すような人々のつながりのことを指します。社会関係資本概念については、以下の記事もご覧ください。

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ネットワーク多様性

カナダの社会学者ボニー・エリクソンは、文化的嗜好のバリエーションと社会ネットワーク多様性の間の関係に着目しています。幅広い文化的嗜好を持っていることが、ビジネスの世界(職場)でのネットワーク構築に有利に働くことを主張しています(Erickson 1996)。

マネージャー層のような高い地位にある個人は、クラシックやオペラといった「正統的文化」を好むイメージがありますが、実際は、ビジネス書についての知識などの「ビジネス文化」や、スポーツのような幅広く知られている「ポピュラー文化」に対する理解度もまた高くなると考えられます。

なぜなら、会社の中で管理する対象となる部下を含めて、役職の垣根を超えた人間関係を効率に運営していく必要があるためです。ちなみに、エリート層の人々が正統的な文化だけではなく、ポピュラー文化を含めた幅広い嗜好をもつことを「文化的オムニボア」と呼びます(Peterson 1992)。オムニボア(omnivore)とは日本語で「雑食」という意味です。

カナダのトロントの民間警備会社への調査(N=393)の結果、文化的嗜好の幅の広さ(=本やメインストリーム芸術の知識、スポーツやチェーンレストランの知識など)とネットワーク多様性(=仕事で知っている人の職業階層の種類)は関連していることが明らかになりました。

ただし、様々な地位を横断して共有された文化となっているスポーツの知識は、異なる地位の人々をつなげる一方で、男性と女性の間で話題のギャップを生むことも明らかにされています。これは、趣味によるネットワークの結束は万能ではないということを示唆しています。

文化の種類とつながりの強さ

アメリカの社会学者オマール・リザードは、趣味によって接続されるつながりの強さに着目しました。正統的文化とポピュラー文化が、それぞれ強い紐帯と弱い紐帯の生成と関連することを示しています(Lizardo 2006)。強い紐帯と弱い紐帯がそれぞれどのような利益をもたらすかについては、以下の記事をお読みください。

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正統的文化の場合は、 社会的地位との関係が相対的に強いため、職業や学歴などが近い人々とのつながりや、ローカルなつながりを維持するために利用される可能性が高く、それゆえに強いつながりの形成を促進する可能性が高くなります。

ポピュラー文化は、幅広い社会的属性の人々がそれに親しんでいる可能性が高くなります。したがって、弱いつながりを促進すると考えられます。

実際、2002年のGSSデータを分析した結果からは、学歴や職業といった社会人口学的要因を考慮しても、正統的文化の消費(美術館や博物館に行く、オペラやクラシック音楽を聴く)は強いつながりの量と、ポピュラー文化の消費(映画を観に行く、ポップミュージックのコンサートに行く)は弱いつながりの量と関連性を持っていることが明らかになりました。

つまり、消費している文化の種類によって、形成されるつながりの強さは変わってくるということです。正統的文化の消費は密なつながりを促進することから、協力や互酬性の規範が育まれることが予想されます。ポピュラー文化の場合は、橋渡し的なつながりが促進されることから、多様な情報が入ってくる可能性が高くなるでしょう。

文化をより細かく見ると

ケヴィン・ルイスとジェイソン・カウフマンは、これらの研究を発展させて、より包括的に文化的嗜好が社会ネットワークに転換されるメカニズムを検討しています(Lewis and Kaufman 2018)。

それまでの先行研究は、「音楽」などの一つの領域における嗜好にしか着目していなかったことに加えて、嗜好の分類が「正統」か「ポピュラー」といった普遍的な、トップダウン的な評価に基づくものしかなかったと指摘しています。

さらに、「共通した嗜好が多ければ多いほど紐帯が形成されやすい」というメカニズム(=文化的マッチング)しか検討されていなかったことや、時間を考慮したダイナミクスを検討することができていなかったことが既存研究の限界点として挙げられています。

文化的嗜好の様々な次元

彼らは、文化的嗜好を「外生的な次元」と「内生的な次元」の2軸から詳細に分類しています。

まず、文化的嗜好を外生的(exogenous)次元から、つまり、「普遍的に妥当するような意味」という観点から、米公共ラジオ局などの公式的な組織が選んだランキング(これはある種の権威に基づいたものと言えます)の中に含まれているかどうかで判断した「聖別化された文化(consecrated culture)」(e.g. モーツァルト)と、曲の売り上げのランキングに含まれているかどうかで判断した「マスカルチャー(mass culture)」(e.g. エリック・クラプトン)の2種類に大別します。

また、内生的(endogenous)次元、つまり、「局所的な文化的な生態系の中から生まれてくる意味」という観点から、学校や企業などの社会的集団の中でどれほど普及した文化なのかで判断(この研究ではある大学の学生からなる集団のfacebookでのfavoriteの割合で見ている)した、普及度の低い「特殊文化(specialized culture)」 (e.g. Reel Big Fish)と普及度の高い「共通文化(common culture)」 (e.g. コールドプレイ)の2種類に分類しています。

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2つの変換メカニズム

次に、文化的嗜好から社会ネットワークへの変換メカニズムも、2種類に区別しています。ある種類の嗜好を持っていることで、どれほど多くの紐帯を獲得しやすくなるか、どれだけ「人気者」になれるかという「一般化された変換(generalized conversion)」と、ある共通した嗜好で、ある二者間がどれほど紐帯形成しやすくなるか、ある2人がどれだけ「仲良く」なりやすいかという「二者的な変換(dyadic conversion)」という2種類の変換過程を定義しています。そして、これらの変換と文化的嗜好の種類がどう関連するのかを検討しました。

彼らは、アメリカのある大学の学生のコーホート(N=1640)のfacebookの情報を用いて、2006年3月から2009年3月までの時系列ネットワークデータを分析しました。

まず、二者的な変換についてはどのような結果になったのでしょうか。二者間での共通した趣味の多さは、他の要因を統制してもなお、紐帯形成に対して正の効果を持っていました。より詳細に見てみると、本の趣味が同じことにはある二者間での紐帯形成に正の効果をもたらしますが、映画の趣味が同じことには負の影響がありました。

先ほど紹介した文化の種類で言えば、特殊文化だけが二者的な変換において正の効果を持っていました。これはつまり、その文化的嗜好が普遍的に評価されているかされていないかに関わらず、ある集団の中で「ニッチ」な趣味だけが、それを共通の趣味とした二人をつなげるということを意味しています。

次に、一般的変換についてはどうでしょうか。共通文化は正の効果を持ち、逆にマスカルチャーは負の効果を持っていました。つまり、共通文化への関与は友達の数を増やし、マスカルチャーは減らしてしまうということを意味しています。

局所的に広く通用する共通文化は、その集団の中での安全な話題として機能し、ネットワークを広げる効果を持っていたのです。

一方で、有名だが正統的でないマスカルチャーへの好意を表明することは、調査対象の大学生にとって「文化的に洗練されていない」と見做されるがゆえに、紐帯を獲得しにくくすると解釈されています。

さいごに

ここまで、趣味と社会ネットワークの関連性に関して重要な研究を紹介してきました。少し長くなりましたが、趣味は社会学の中でも伝統的に大きなテーマでしたが、社会ネットワークとの関連性が議論されるようになってから、ますますその存在感を発揮している領域となっています。

そして、計算社会科学の流行もあって「文化をどう測定するか」という議論も活発になされるようになってきました。ともすれば自明に存在しているように見える「文化」ですが、今後どのような視点が生み出されていくのか、楽しみでなりません。

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次回は「社会的なつながりはデザインできるか?」というテーマで書きます。

【参考文献】

  • DiMaggio, P. (1987). Classification in art. American sociological review, 440-455.

  • Erickson, B. H. (1996). Culture, class, and connections. American Journal of Sociology, 102(1), 217–251.

  • Kalmijn, M. (1998). Intermarriage and homogamy: Causes, patterns, trends. Annual review of sociology, 24(1), 395-421.

  • Lewis, K. (2016). Preferences in the Early Stages of Mate Choice. Social Forces, 95(1), 283–320.

  • Lewis, K., & Kaufman, J. (2018). The conversion of cultural tastes into social network ties. American journal of sociology, 123(6), 1684-1742.

  • Lizardo, O. (2006). How Cultural Tastes Shape Personal Networks. American Sociological Review, 71(5), 778–807.

  • Peterson, R. A. (1992). Understanding audience segmentation: From elite and mass to omnivore and univore. Poetics, 21(4), 243-258.


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