社内に数名いるキーボードおじさんの一人、プロダクト開発部の吉田です。
「おしゃれはキーキャップから」という言葉もあるように、キーボードにとってのキーキャップは見た目を左右する大事な要素です。
しかしキーキャップは見た目だけでなく様々な素材や形状があり、それによって打ち心地が大きく変わるアイテムでもあります。
そこで今回は見ただけでは分かりにくいキーキャップの素材と形状について紹介したいと思います。*1
素材の種類
キーキャップに利用される素材は多くなく、市販されているもののほとんどはABSもしくはPBTです。
ABS
ABS樹脂は安価で加工がしやすく多くのキーキャップで採用されている素材です。
文字とそれ以外の部分を別の色の樹脂で作るダブルショット(二色成形)キーキャップもこの素材を利用する場合が多いです。
しかし耐久性は他の素材と比較して弱く、日光や紫外線にさらされると劣化したり長時間の使用で摩耗します。(摩耗するとテカテカした見た目になります。)
表面は比較的つるつるしており打鍵音は「カチャカチャ」したものになります。
PBT
ABSと比較すると高価ですが耐久性があり触り心地はサラサラ・ザラザラしています。
ABSよりも融点が高く成形にコストがかかるためかダブルショットキーキャップはあまり見かけませんが、その融点の高さを利用して昇華印刷に適しています。
厚みのあるPBTキーキャップは「コトコト」・「ポトポト」といった打鍵音がします。
POM
質感や打鍵音はABSに似ているものの、ABSより高耐久な素材です。
この素材を採用しているキーキャップは少ないようで、あまり見かけません。
Polycarbonate
RAMA WORKS*2が販売するキーキャップセットのひとつに採用されています。
ポリカーボネートは上に挙げた他の素材よりも透明性に優れるため、キーボードを綺麗に光らせたい場合などによさそうです。
その他
機能性よりも視覚的な要素に特化したArtisanキーキャップなどは上記の素材に当てはまらないこともあります。*3
形状の種類
形状のことはProfile(プロファイル)と呼ぶことが多く、Profileはメーカーや個人が自由に決めているため今後も種類が増えていきそうです。
MIX profile "Big Bang" Ortholinear Keycap Set available on KBDfans NOW - deskthority より引用*4
※ 下記によく見聞きするProfileたちを記載しますが、厳密な分類でないかもしれません。
OEM
市販のメカニカルキーボードに装着されているキーキャップの多くはOEM Profileと呼ばれるものです。
各行によって傾きや高さが異なり(スカルプチャード(sculptured)と言います)、指に触れる上面は円柱を横にしたような(シリンドリカルと言います)形状に窪んでいます。
Cherry
OEMに似たシリンドリカルでスカルプチャードな形状ですが、OEMよりもやや背が低いです。
GMK electronic design GmbH(通称GMK)社などが製造しています。
DCS
Cherry Profileに似ている形状です。
Signature Plastics社が製造しています。*5
DSA
すべての行が同じ高さで、上面は球状に窪んでいる(スフェリカルと言います)形状を持つProfileです。
Signature Plastics社が製造しています。
SA
背が高く上面はスフェリカルな形状のProfileです。
四角錐台の側面は上面から下面にかけて膨らむようになだらかにカーブしています。基本はスカルプチャードですが、すべて同じ高さで揃えられたキーキャップセットもあります。一般に馴染みのあるキーキャップよりもだいぶ背が高いため初めて触る人少し驚くかもしれません。
Signature Plastics社が製造しています。
G20
上面が平らでノンスカルプチャード(non-sculptured)なProfileです。
Signature Plastics社が製造しています。
DSS
SAの背を低くしたようなProfileです。
Signature Plastics社が製造しています。
XDA
すべてのキーが同じ高さでスフェリカルな形状を持つProfileです。
DSAと似ていますが、上面の面積はXDAのほうが広いです。
MDA / MIX / EDRUG
スカルプチャードなXDAのような形状です。
MT3
Matt3o氏が設計した背が高く深いスフェリカルな窪みを持つProfileです。TopreのHiProやSAに影響を受けて設計されたようです。
ADA
DSAよりも上面が深く窪んでいて背が低いProfileです。レトロなCherryキーボード(M8)に影響を受けて作られたようです。
TEX Electronics社が販売しています。
Cubic
OEMに似ていますが、名前の通りより角張ったような形状をしています。
Tai-Hao社が製造しています。
KAT
SAよりも低く各行の高さの変化がなだらかで、より良い打鍵音になるよう設計されたProfileです。
猫の爪からもインスピレーションを受けたそうです。(だからこの名前なのでしょうか。)
新しめProfileのためキーキャップセットの種類は多くありません。
KAT Alpha Keycap Setkono.store
KAM
DSAよりも若干が背が高く、表面がなめらかなPBT製キーキャップProfileのようです。
まだ一般に出回っていないようで情報が少ないです。
XDC
MDAに似ているように見えますが、現時点であまり情報がないProfileです。
HuB
高さはDSAに近く、スカルプチャな形状をもつProfileです。
このProfileを持つキーキャップ製造のため、2018年にKickstarterでクラウドファウンディングが行われましたが目標金額に達せずキャンセルとなりました。その後も販売されておらずまだ一般に流通していないProfileです。
NovelPro
NovelKeysというショップが設計中のSAよりも背が低いProfile(というよりキーキャップセット名?)です。
MT3やSA、TopreのHiProを参考に設計されているようです。Profileの正式名称はまだ決まっていません。このProfileを採用したキーキャップはまだ販売されていませんが、最初のキーキャップセットはPOM+ダブルショットという組み合わせになるようです。
HSA (HALF SA)
JTKというメーカーが設計中のProfileです。
名前の通りSAの高さを半分にしたような見た目をしています。このProfileもまだ設計中のためキーキャップセットは未登場です。
MG
TopreのHiProと非常に良く似た上面の形状をしています。
現在このProfileを採用した最初のキーキャップセットのInterest Check*6とプロトタイプ作成が行われています。各行の高さはSAと同じで、くぼみの深さはMT3より若干浅いようです。
RW LP A
RAMA WORKSが設計したProfileです。
背が低く、上面はくぼみの外側に余白があるような特徴的な形状をしています。
このProfileを採用している製品としては現時点でポリカーボネート製の RAMA WORKS LOW PROFILE IM CAP SET A
(予約受付中)があります。
GRID Set A (Low Profile Keycaps)ramaworks.store
その他
レジンや3Dプリントによっても作られるArtisanキーキャップはこれらのカテゴリに当てはまらないものが多いです。また、自作キーボード界隈では独自のProfileを設計・販売を行うケースもあります。
ここまでに挙げたProfileまとめ
Profile Name | Sculptured | Top | Height*7 |
---|---|---|---|
MG | yes | spherical | high |
MT3 | yes | spherical | high |
SA | yes | spherical | high |
DSS | yes | spherical | medium |
HSA | yes | spherical | medium |
HuB | yes | spherical | medium |
KAM | yes | spherical | medium |
KAT | yes | spherical | medium |
MDA / MIX / EDRUG | yes | spherical | medium |
NovelPro*8 | yes | spherical | medium |
XDC | yes | spherical | medium |
Cherry | yes | cylindrical | medium |
Cubic | yes | cylindrical | medium |
DCS | yes | cylindrical | medium |
OEM | yes | cylindrical | medium |
ADA | no | spherical | medium |
DSA | no | spherical | medium |
XDA | no | spherical | medium |
G20 | no | flat | medium |
RW LP A | no | spherical | low |
最後に
キーキャップの素材と形状の組み合わせは非常に多く、手触りや見た目の好みで選ぶのも楽しいものです。
自分の指にピッタリ合うものを見つけられれば生産性が上がったり上がらなかったりするかもしれません。
この記事が次のキーキャップを選ぶ際の参考になれば幸いです。
参考
*1:数が多いためCherryMX互換スイッチ用のもののみ紹介します
*2:キーボードを中心に設計しているデザイナー集団(だと思っている)
*3:Artisanキーキャップ - Self-Made Keyboards in Japan
*4:いくつかのProfileのキーキャップを横から見たときの比較。Fnキー行をR1、数字行をR2のように表現している
*5:https://pimpmykeyboard.com/key-cap-family-specs
*6:https://scrapbox.io/self-made-kbds-ja/Interest_Check
*7:Signature Plastics社の分類を参考に勝手に分類しました
*8:前述のとおり正式名称は未決定