この夏、初めてオクラを育ててみたところ、思いのほかたくさん実がなり、毎朝の収穫に追われていました。研究開発部の吉村です。
今回は、2025年10月7日に株式会社サイバーエージェントで開催された、株式会社サイバーエージェント・株式会社ビズリーチ・Sansan株式会社の3社合同イベント「渋谷 Biz × AI: ビジネスにおける AI 利活用 事例勉強会 第3回」の様子をレポートします。
渋谷 Biz × AI: ビジネスにおける AI 利活用 事例勉強会とは
この勉強会は、AIや機械学習の技術をビジネスの現場でどう活かすかをテーマに、毎回多彩な事例を紹介してもらうイベントです。ゲストもお迎えしながら、発表だけでなく懇親会を通じて情報交換を行う場にもなっています。
簡単な歴史としては、第1回は2024年2月に株式会社ビズリーチとSansan株式会社の2社共催でスタートし、第2回からは第1回ゲストの株式会社サイバーエージェントも加わって、渋谷に本社を構える3社合同の勉強会になりました。
今回の第3回では、同じく渋谷を拠点とする株式会社MIXIの木内さんをゲストにお迎えしました。
勉強会内容

今回の勉強会は株式会社サイバーエージェントの青見さんの司会から始まり、4 名の登壇者からそれぞれ下記の発表がありました:
- Multi Agent System の大規模化で起きたこと (株式会社サイバーエージェント・古川新さん)
- Large Vision Language Modelを用いた文書画像データ化作業自動化の検証、運用 (Sansan株式会社・齋藤慎一朗)
- ビズリーチの「企業向けレコメンド」機能について (株式会社ビズリーチ・加藤洋崇さん)
- ルールベースからMLへ みてね写真プリント自動提案の活用事例 (株式会社MIXI・木内貴浩さん)
ここからはそれぞれの発表について聴講した内容をまとめていきます。
Multi Agent Systemの大規模化で起きたこと

最初に、株式会社サイバーエージェントの古川新さんから「Multi Agent Systemの大規模化で起きたこと」という発表がありました。この発表では、Agentを組み合わせて漫画をローカライズするプロダクト開発の事例が紹介されました。
株式会社サイバーエージェントでは、漫画特有の日本語表現(主語の省略など)によって翻訳が難しい課題に対し、登場人物の発話意図を理解することを重視し、20以上のエージェントを組み合わせたMAS(Multi Agent System)でローカライズを行っているそうです。
発表では、MASが大規模になることで生じる「予測可能性と安定性の低下」「拡張性と保守性の崩壊」「開発効率の低下」という3つの課題について具体例を交えながら共有いただき、サイバーエージェント社での対処法が詳しく紹介されました。
Large Vision Language Modelを用いた文書画像データ化作業自動化の検証、運用

弊社からは、齋藤慎一朗が「Large Vision Language Modelを用いたPDFのデータ化作業の自動化率改善とその運用」というテーマで発表しました。
社内で活用されているLVLMを用いた人事異動情報PDFの自動データ化を行う取り組みについて、課題や改善の工夫を紹介しました。
主な課題としては「レスポンスの遅さ」と「GPUコストの高さ」の2点を取り上げました。これらに対し、リクエストとレスポンス間の処理設計を工夫し、タスクの精査を行って費用対効果の高い用途に限定するという対処について紹介しました。全体を通して、「どの瞬間にレスポンスが本当に必要かを見極めること」の重要性について共有しました。
ビズリーチの「企業向けレコメンド」機能について

株式会社ビズリーチの加藤洋崇さんによる『ビズリーチの「企業向けレコメンド」機能について』という発表では、同社のAI技術がどのように企業と求職者のマッチング機会の向上に活用されているかが紹介されました。
特に、転職サイト「ビズリーチ」における企業向けレコメンド機能の仕組みと課題解決への取り組みが中心に説明されており、課題として、企業側のスカウト送信数の拡大や、求職者とのマッチ度の低さによる返信率の低下が挙げられていました。これに対し、ビズリーチでは行列分解を用いた推薦モデルによって候補者を見つけやすくし、さらに求職者の行動履歴から返信率を予測するモデルを組み合わせることで改善を図っているとのことです。
これらのモデルを活用することで、レコメンド利用時の返信率が、非利用時と比べて約5倍に向上したと報告されていました。今後の課題としては、行動履歴のみでは対応が難しいコールドスタート問題や、企業側に偏った設計の改善を目指し、多段階推薦モデルや相互推薦モデルの開発が進められているとのことでした。
ルールベースからMLへ みてね写真プリント自動提案の活用事例

4人目のスピーカーはゲストの株式会社MIXIの木内貴浩さんから「ルールベースからMLへ:みてね写真プリント自動提案の活用事例」についてお話を伺いました。
発表では、子どもの写真や動画を家族と共有できるアプリ「家族アルバム みてね」において、写真プリントの自動提案機能をルールベースから機械学習モデルへと刷新し、提案精度とメンテナンス性を高めた取り組みが紹介されました。課題として「精度改善の限界」「データの変化への対応の難しさ」「パーソナライゼーションの限界」が挙げられ、これらを解決するための実践的な工夫を共有してくださいました。具体的には、Precision@11などの評価指標設定、BigQueryとdbtによる大規模データの効率的な前処理と品質管理、LightGBMによる推薦モデル構築、そしてpHashとMMR(Maximal Marginal Relevance)を用いた多様化対応などの話がありました。それらの工夫の結果、A/Bテストではユーザ離脱率が減少し、写真購入量が増加するなど、成果が確認されているようです。
さいごに
今回の勉強会では、業界やサービスの垣根を越えて、AIをどうビジネスへ実装・運用していくかについて多くの知見が共有されました。それぞれの企業が抱える課題やアプローチの違いがとても刺激的で、「現場で使えるAI」を改めて考えるきっかけになったと感じます。
「渋谷 Biz × AI」勉強会は、今後も継続して開催予定です。次回は 2026年2月ごろ Sansan株式会社にて開催予定 です。渋谷を拠点にAI活用を推進する企業や担当者が気軽に集まり、実践的な知見を交換できるコミュニティとして続けていきます。
AIや機械学習の業務活用にご興味のある方は、ぜひ次回ご参加ください!