こんにちは。Sansan Builders Blog 編集部です。
今回は、2022/2/22に開催したイベント「1年で6倍にメンバーが急増したエンジニアリング組織の変遷と判断」のレポートをお届けします。
このイベントはシリーズ開催で、本記事に記載する第一弾ではエンジニア組織の立ち上げからこれまでを振り返っており、3/16に開催する第二弾では続編として現在とこれからについてお話しする予定です。こちらもぜひご注目ください。
なお、本レポートではイベント前半の発表セッションについてまとめています。後半のトークセッションは記事の最後に掲載しているアーカイブ映像にて公開しています。
発表者の人柄や雰囲気が伝わるカジュアルなトークの模様は、映像でもぜひお楽しみください。
はじめに / このイベントは何?
「Sansan Tech Meetup マネジメント編」と題して全3回からなるこのイベントでは、クラウド請求書受領サービス「Bill One」のプロダクト開発責任者である大西による発表と、VPoEの西場を交えたトークセッションをお届けしています。
大西は、Sansan入社後 Webエンジニアを経て、拠点・組織・事業の立ち上げを経験、ピープルマネジメントからチーム・組織マネジメント、プロダクトマネジメントまで、プロダクト開発に関わるあらゆる経験を積んできました。
最近、イベントのアンケートで「マネジメント/組織づくりについて聞きたい」という声が多く、大西がこれまでSansanで経験してきた知見をお伝えすることで何か皆さんのヒントになれば...ということで始まったのが本企画です。
初回となる今回のテーマは、「1年で6倍にメンバーが急増したエンジニアリング組織の変遷と判断」。
「請求書受領から、月次決算を加速する」がコンセプトの、クラウド請求書受領サービス「Bill One」。その事業成長を支えるエンジニアリング組織の人数は、この1年間で5名から30余名へと急激に増加しました。
本発表では、組織拡大の過程を振り返るとともに、マネージャーとしてどのような課題と向き合い、何を考えて各種の判断をしてきたのかを紹介しました。
顧客からのフィードバックでプロダクトを成長させる
「Bill One」がローンチしたのは2020年の5月。それから2年弱で急成長を遂げ、2021年11月時点でのMRR(月間定期収益)は6,100万円、前年同期比は約12倍となりました。それに伴い開発に携わる社員も増え、登壇時点では6チームに合計33名のエンジニアが所属しています。
今回のイベントでは、エンジニアリング組織を「立ち上げ期」「拡大期」「底上げ期」という3つのフェーズに分けて解説しました。
立ち上げ期は、少数精鋭でプロダクトマーケットフィットに向けて事業を立ち上げた時期です。エンジニアの数は5名からスタートしました。当時から現在まで大切にしている考えは「顧客への価値を最短で提供し、顧客からのフィードバックでプロダクトを成長させること」。
その目標を実現するため、「Bill One」のエンジニアリング組織では、以下の3つを特に大切にしてきました。
- 全ての役割の人たちが、プロダクトのより良い体験にコミットメントできるようにコミュニケーションを実施する
- ビジネスの状況に応じて、最適なストーリーを開発する
- 安全な環境で素早くリリースする
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組織を拡大させるために注力したこと
その後、「Bill One」がプロダクトマーケットフィットに到達して顧客に受け入れられるようになると、組織は拡大期に入ります。
5名だったエンジニアの数を、約半年で30名超に増やすことを目指しましたが、これほど急速に組織を拡大させた経験がなかったため、半年後の組織のあり方が見えず不安な気持ちになりました。しかし、「Bill One」を急成長させるフェーズでは多くのエンジニアが必要です。そのため、事業成長率が低下するリスクと組織が崩壊するリスクとを天秤にかけたうえで、「自分自身ではコントロールできない前者のリスクを回避すべき」と判断し、エンジニアリング組織を急拡大させる覚悟を決めました。
こうしてエンジニアの採用に注力することになりますが、採用活動初期の頃は「Sansan=名刺の会社」というイメージが強く、「Bill One」にはエンジニアの応募がなかなか集まりませんでした。そこで、さまざまな技術イベントへの登壇やエンジニアブログの執筆、採用媒体でのスカウト、採用イベントへの参加など、ありとあらゆる手段を使ってエンジニアとの接点を増やしていきました。採用活動に割いた時間は、ピーク時でひと月あたり80時間ほどでした。
さらに、チーム総出で採用活動を行いました。この時期に大切にしたのは、全員で採用活動の“目線合わせ”をすること。「Bill One」のエンジニアたちで話し合い「なぜ多くのエンジニアを採用するのか」「どれくらい採用に注力すべきなのか」という点に共通認識を持つようにしました。
各種の情報をドキュメントに残す方針を徹底し、採用したエンジニアがいつでもどこからでも開発に参画しやすいよう組織の環境を整えたこともポイントです。早い段階でドキュメント整備に着手しておくことで、人数が増えるごとに複利で効果を発揮するのです。
また、「『Bill One』のエンジニアリング組織が目指す文化」を以下のように定義し、組織の人数が増えたとしても全員が同じ意識で仕事に向き合えるようにしました。
事業成果を最優先に各自が主体的に行動し、成長し、一体感を強く持つ文化 *1
- 相談を重ねて、自ら最終判断をする
- エッセンシャル思考
- 早期フィードバック
- 学習思考
- 情報はオープンに共有
- 信頼マネジメント
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チーム分割と組織拡大のピーク
エンジニアの人数は着実に増えていき、2021年5月1日に11名になったタイミングでチーム分割を行いました。この際に重要だったのは「メンバーが増える前の段階で、前もってチーム分割した状態を想定して各種の業務を行い、リハーサルしておくこと」。そしてチーム分割にあたり、「Bill One」では以下の方針を決めました。
- 各種イベント(朝会やデモ等)を全員参加かチーム単位で行うかを決める
- チームで機能の担当領域は区切らない
- 期待する役割がなかったため、チームにリーダーは用意しない
- チーム単独でユーザーに価値を届けられるようにする
- 設計や実装でチーム外メンバーへの相談が必要な場合は積極的に実施する
- リリース当日は各チームの主導者を決めて、主導者たちで推進する
その後も順調にエンジニアが参画し、チーム数が増えましたが、徐々に課題も生じるようになりました。コミュニケーションがチーム内に閉じるようになってしまったのです。この状態を改善するため、「Bill One」のエンジニアリング組織では月次で、全エンジニアが参加する「OST(オープンスペーステクノロジー)」を開催するようにしました。
OSTではさまざまなテーマを全員で討論します。コミュニケーションの促進を図り、組織がより良い方向に向かうようにしたのです。これをきっかけに改善できたことがいくつもありました。
組織がさらに拡大してきたこの時期には、メンバーへの権限移譲を行いました。プロジェクトリードとテクニカルリード、プロダクトリードという3つのロールをチーム内に配置。
テクニカルリードはバックエンド開発のスキルが高いエンジニアを割り当て、それ以外のロールは立候補制にしました。チャレンジできる環境を用意したいからこそ、モチベーションが高いエンジニアに権限委譲できる仕組みを作ったのです。
加えて、大規模スクラム(LeSS:Large Scale Scrum)を参考にして、開発プロセスそのものも刷新しました。この頃には、チームごとに担当領域を決めて開発を行うようになりました。
各チームが自走できるようになるためには、定期的に事業全体へのメッセージを伝え続けることが重要です。そこで、チームの存在意義や期待値を言語化したラブレターを届け続けました。これにより、その指針に基づいて各エンジニアが行動できるようになりました。
「拡大期には、3か月ごとに組織のフェーズが変わっていった。過去の成功体験に囚われず、変化を恐れずに少し先の未来を見据えて挑戦していくことが大切」と振り返りました。
おわりに
次のフェーズである「底上げ期」については、2022年3月16日(水)に開催する「#2 MRR約12倍成長の事業を支えるエンジニアリング組織作りの "いま" と "目指す未来"」で詳細をお話しします。ぜひお楽しみに。
本イベントは180人以上の方にご視聴いただき、Twitterでもたくさんの気づきや感想がシェアされました。皆さんのコメントはこちらのTogetterもご覧ください。
また、イベント後半のTalk Sessionでは皆さんから頂いた質問にお答えしました。
なんと合計60分(!)もの長丁場となりましたので、こちらの模様は本記事末尾のアーカイブ動画もあわせてご覧ください。