Sansan Tech Blog

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【イベントレポート】VPoEの視点で見る組織の進化 〜組織変革とグローバル連携、次世代リーダー育成の戦略〜

2024年10月9日、Sansan株式会社はイベント「VPoEの視点で見る組織の進化 〜組織変革とグローバル連携、次世代リーダー育成の戦略〜」を主催しました。イベント会場となったのは、JR渋谷駅に隣接する渋谷サクラステージ。弊社は2024年9月30日に同所へとオフィス移転したのですが、オフィスでのイベント開催は移転後初でした。オフライン&オンラインのハイブリッド形式で開催いたしました。

本イベントでは、キャディ株式会社とSansan株式会社、株式会社メルペイの3社のVPoEが登壇。それぞれ異なる事業モデルや事業フェーズ、開発組織の構造・規模の中で、マネジメントに向き合う3者が、組織変革やグローバル化、ダイバーシティ推進、次世代リーダー育成における実践や課題などをディスカッションしました。今回は、イベントのレポートをダイジェストでお届けします。

<スピーカー>
キャディ株式会社 Drawer VP of Engineering 藤倉 成太
株式会社オージス総研でシリコンバレーに赴任し、現地ベンチャー企業との共同開発事業に携わる。帰国後、金沢工業大学大学院工学研究科知的創造システム専攻を修了。2009年にSansan株式会社に入社し、2019年執行役員 CTOに就任。Sansan Global Development Center, Inc.のDirector/CTOとして海外開発体制を強化した。2024年キャディ株式会社に入社し、Drawer VP of Engineeringに就任。

Sansan株式会社 VP of Engineering 大西 真央
SEとしてエンジニアのキャリアをスタートさせ、2012年以降はアジャイルやDDDなどの開発スタイルを経験。2016年にSansan株式会社に入社し、営業DXサービス「Sansan」の大阪開発拠点立ち上げやインボイス管理サービス「Bill One」の立ち上げにプロダクト開発責任者として携わる。現在は、VPoEとしてエンジニアリング組織の強化を担う。

株式会社メルペイ 執行役員 VP of Engineering 常樂 諭
大手SIでエンジニアとしてキャリアをスタート。2007年Sansan株式会社を共同創業し、プロダクト開発に従事、企業の成長に合わせてオペレーションの再構築、研究開発部門の立ち上げ、データ活用についても管掌する。また個人情報を大量に扱う事業の特性からCISOとして情報セキュリティ分野も管掌する。最終的に取締役 CISO 兼 DSOCセンター長を務める。2022年5月より土木業界をDXする株式会社EARTHBRAINにてVPoEを務め、2024年7月より株式会社メルペイ。

<モデレーター>
ソフトウェアエンジニア/ライター・編集者 中薗 昴
ソフトウェアエンジニアとライター・編集者を兼業するパラレルワーカー。現職のソフトウェアエンジニアとして培った知見を活かし、IT企業やエンジニアリングの魅力を引き出すコンテンツ制作・技術ブランディング支援を受託で行っている。

事業モデルや事業フェーズ、開発組織の構造・規模に応じたマネジメントスタイルの変化

キャディ・Sansan・メルペイの3社はいずれも、事業拡大に伴って組織の規模が劇的に変化するフェーズを経験しました。イベント序盤では、そうした事業・組織の変化に伴い、マネジメントスタイルをいかに変えていったのかが語られました。

大西は自分自身が開発チームを先導した、インボイス管理サービス「Bill One」の事例について紹介。サービスローンチ時のエンジニアは3名だったものの、3年で60名まで増加。徐々にメンバー全員との1対1での会話は難しくなったため、リーダーを担えるメンバーに権限を委譲しながら組織をスケールさせました。

前例のないスピードでの組織拡大だったものの『爆速成長マネジメント』や『ブリッツスケーリング』などのマネジメントの名著を読み、記載されているノウハウを業務に活用。自分自身のマネジメントスタイルが「メンバー個別を対象としたマネジメントから、組織全体に向けてのマネジメントに変わった」と当時を振り返ります。

常樂氏は前職のSansan株式会社でマネジメントを行っていたときに、自分一人だけで実現できることの限界を感じ、チームで成果を出すためにメンバーを信じて任せるスタイルに変えたといいます。さらに、チームが一丸となって成果を出すうえで、「ミッション・ビジョンを言語化し、ロードマップに落とし込んで組織内に伝達させること」が重要であると述べました。

また、藤倉氏は前職のSansan株式会社でマネジメントを行っていたときに、営業DXサービス「Sansan」の開発部長の経験を通じてマネジメントスタイルの基盤が構築されたといいます。開発組織の状況を報告する際に、「意思決定の根拠となるデータは何か」「数あるプランのなかからその方針を選んだのはなぜか」などの説明を直属の上司から求められたといいます。

その環境で鍛えられたからこそ「開発組織におけるすべての意思決定や行動の根拠・理由を、いつ誰に聞かれても即答できるようになった」と藤倉氏は言及。後にSansanのCTOを担うようになってからも、そして現在のキャディのVPoE業務においても、そのスキルがマネジメントに生きていると解説しました。

グローバル化やダイバーシティ&インクルージョンの推進

プロダクトを日本のみならず世界に展開する企業が徐々に増えてきています。また、日本拠点だけではなく海外の拠点も構築することや、日本拠点においても多種多様な国籍のメンバーが一緒に働くことは、現代のIT企業経営において有力な選択肢となっています。出産や子育てをしやすい職場環境や時短勤務や在宅勤務といった働き方を整備することも、多くの人が働きやすい会社を作るために、必要な要素と言えるでしょう。イベント中盤ではそうしたグローバル化やダイバーシティ&インクルージョンの推進について語られました。

メルカリでは合計で55カ国という、多種多様な国籍のメンバーが働いています。そのうち、エンジニア組織の外国籍社員の割合は登壇時点で56.8%。異なる言語を話すメンバー同士が円滑にコミュニケーションできるように、「やさしい日本語・英語を使う」「言語学習プログラムを用意する」「通訳・翻訳サポートを導入する」「翻訳botを使用する」などフォローアップをしています。

ただし、単に言語を翻訳するだけでは、それぞれの国の人々が持つ文化や考え方の違いまではキャッチアップできません。常樂氏は「1on1ミーティングで定期的にメンバーと対話するなど、コミュニケーションを丁寧に行うことで信頼関係を築く必要がある」と述べました。

藤倉氏も常樂氏に賛同し「言語の壁よりも、文化・考え方の壁を乗り越えることのほうが大変」と言及。アメリカのエンジニアの働き方を例に挙げ「アメリカではジョブディスクリプションに書かれていない仕事を社員は絶対にやりません。日本人のように自分の担当ではない仕事も、気を遣ってやっておくという文化はないんです」と言い、国が違えば仕事における“当たり前”も違うことを説明しました。

ただし、そうした前提があるのだとしても「お互いに尊敬の気持ちを持つこと」「違いがあるという前提のもとにコミュニケーションをすること」を心がければ、文化・考え方の壁を乗り越えることは可能だといい、前職のSansan株式会社でフィリピン・セブ島のグローバル開発センター設立に携わった事例について振り返りました。

大西は2人の話を踏まえて、海外拠点を立ち上げる場合や多数の国籍のメンバーが一緒に働く場合においても、「実は日本拠点で日本人のみの開発組織をマネジメントする場合と、本質は変わらないのではないか」と述べました。開発組織において、すべてのメンバーの意見が完全に一致することはありません。だからこそ、お互いの違いや良さを認め合いながらコミュニケーションをし、仕事を行うことが重要なのです。

次期リーダー育成のための取り組み

開発組織のトップに立つ人間の大切な役割のひとつとして「次期リーダーを育て、開発組織が持続・拡大可能な状態にしていくこと」が挙げられます。イベント終盤では、メンバー育成についての考えや事例などを3者が解説しました。

Sansanは次期リーダーの育成に力を注いでいます。具体例としては、リーダー候補となるような優秀なメンバーたちに、他部署のメンターをつけるという制度があります。さらに、よりチャレンジできる環境を求めて、他部署への異動も可能。「リーダー育成を自部署だけで完結させるのではなく、エンジニア組織全体でどうやって育成するかを考えている」と説明しました。

常樂氏はリーダーの役割の定義を「方向性を決めて組織を率いる人」であると述べたうえで、そのために「ビジョンを提示し、ロードマップを作成し、考えや行動の指針を言語化すること」が重要であると説明します。メルカリの業務においても、リーダーがこうした一連のプロセスを経験することで、組織を率いる力を向上させているのです。

とりわけ、“言語化”のプロセスを行う過程で、プロジェクトや組織に不足している情報や思考の不備などがクリアになっていきます。また、他の人々に正しく過不足なく情報を伝達するためにも、パワーポイントのような抽象的な概念ではなく、わかりやすい言語化は欠かせません。そのため、「リーダーを目指す人は場数を踏み、言語化のスキルを磨いてほしい」と述べました。

藤倉氏は「自分自身はVPoEとして、経営陣から何を期待されているか」「その前提を踏まえて、リーダーのあなたには何を実現してほしいか」という前提条件や期待値などを、曖昧にせず相手に説明し、共通認識を持ったうえで育成をすると言及。また、常樂氏と同様にリーダーを育成するうえでも、言語化のスキルを伸ばすことを重視しています。

藤倉氏は自分自身の言語化の訓練方法として、就寝前や入浴時、通勤中などありとあらゆる場面で「もし私がこう説明をすれば相手はどう反応するか。それに対して私はどう返答すべきか」を常にシミュレーションしているといいます。

また、大西も藤倉氏と同様の手法で訓練をしているだけではなく、過去には書籍の要約にも取り組んでいたとも述べました。チームメンバーで同じ本を読み、誰の要約が良いかを競うことによって、ゲーム感覚で言語化のスキルを磨くことができるのです。

おわりに

ありがたいことに、本イベントは多くの方々にご視聴いただき、盛況となりました。Sansanでは今後もさまざまなイベントを開催し、IT業界の方々にノウハウや交流の場を提供してまいります。ぜひ次回のイベントもご参加いただければ幸いです。

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