名刺アプリ「Eight」のWeb開発組織でマネジャーをしている篠原です。最近は2歳の娘に翻弄される日々を過ごしています。
長く続くプロダクトを進化させる中で、日々の新機能開発と中長期の技術的取り組みをどう両立するかは、多くの開発組織が直面する課題です。EightのWeb開発組織も例外ではなく、このテーマに向き合い続けてきました。
本記事では、その解決策として導入した「Feature / Enhancement」体制について、背景と現状、そしてこれから目指す姿を紹介します。
Eightの今
Eightは2012年の提供開始以来、名刺という「ビジネスの出会い」の起点を軸に、400万人を超えるビジネスパーソンに利用されています。*1直近1年だけでも36万人のユーザーが新たに加わり、今は1000万人に向けて成長を加速させているフェーズです。最近の代表的な取り組みとしては、デジタル名刺ログイン機能をリリースしました。 Eightで発行したデジタル名刺を使って外部サービスにログインできるこの機能は、Eightを「名刺管理」から「ビジネスID」へと進化させる挑戦です。
確かなユーザー基盤を持ちながらも、Eightはまだ発展途上にあります。だからこそ、さらなる成長を支える持続可能な開発体制が不可欠です。 新機能開発と並行して、技術的負債の解消や基盤強化、生成AIの活用といった取り組みを推進するために、今回の「Feature / Enhancement」体制を導入しました。
なぜ体制を変える必要があったのか?
以前のEightのWeb開発組織は、ほぼ同じ責務を持つ2つのチームで構成されていました。日々の新機能開発やPoCを優先する中で一定の成果は出していましたが、技術的課題に継続的に取り組むことができないという問題を抱えていました。
技術的負債の解消や基盤整備を目的にTechnical Backlog(技術バックログ)を立ち上げても、日々の機能開発に追われて運用が続かず、結果として課題は後回しになりがちでした。この状況が積み重なり、生産性の低下の課題がちらほらと顕在化していました。
こうした課題を解消し、新機能開発と技術改善を両立できる組織をつくるために、体制を見直す必要がありました。
新体制「Feature / Enhancement」チームとは?
課題を踏まえ、体制を見直し、次の2チームを編成しました。Featureチーム
Product Backlogを基に、ユーザーにとって価値の高い新機能を企画からリリースまで一貫して担います。PdMやデザイナーと連携し、スクラムで機能開発を進めています。直近の取り組み例:
- 「BOXIL」、名刺アプリ「Eight」との連携を開始し、デジタル名刺を活用したログイン体験を提供 | スマートキャンプ株式会社のプレスリリース
- Eight、名刺交換後に自身のデジタル名刺をメール送付可能に | Sansan株式会社のプレスリリース
- マルチチャネルフォーム「Ask One」がSansanの名刺アプリ「Eight」と連携 | ナインアウト株式会社のプレスリリース
Enhancementチーム
Technical Backlogを基に、技術的負債の解消、品質改善、生成AIの推進を担当します。単なる「支援役」ではなく、Featureチームの活動を持続可能にする土台づくりの専門チームです。直近の取り組み例:
- バッチ処理のクラウドネイティブ化
- Rubyへの型導入
- 生成AI活用に向けたメモリバンク整備、各種ツール導入支援
新体制でどんな変化が起きたか?
新体制がどのように機能しているかは、現場の声を交えたチーム紹介記事でも詳しく紹介しています。ここでは、体制変更によって具体的に生まれた変化をお伝えします。Featureチームが機能開発に集中できるようになった
以前は、技術改善に着手するたび、機能開発との優先度調整やリソースのやりくりが頻発していました。責務が明確になったことで、Featureチームはプロダクト開発に専念できるようになり、機能開発のプロセス改善にも取り組みやすくなりました。Enhancementチームにより継続的に改善活動が進むようになった
過去に何度か挫折したTechnical Backlog運用も、Enhancementチームのオーナーシップにより定着し、改善活動が継続的に進むようになりました。組織全体で課題への意識が高まった
誰でも起票できるTechnical Backlogと、隔週の優先度レビューの仕組みを整備。機能開発の中で見つかった課題をTechnical Backlogに載せて共有・議論できるようになりました。新たな課題とこれからの展望
もちろん、新体制にすればすべてが解決するわけではありません。現時点で見えている課題は大きく2つあります。
モジュールと機能開発チームの組織設計
複数ドメインが密に絡み合ったモジュール構造のため、分割を容易に進められておらず、開発スピードの制約につながっています。モジュール分割には向き合っているものの明確な解を見つけられず、その複雑さはコンウェイの法則の通り、チーム分割や責務整理にも直結し、機能開発を担うFeatureチームの分割は重要なテーマとなっています。
まずドメイン単位での依存関係の整理を進めたいと考えています。
理想と現実のバランス
本来は機能開発と技術改善を同じチームで進めるのが理想ですが、現状はまだギャップがあります。技術改善はEnhancementチームだけに閉じるものではなく、組織全体で取り組むべきものです。Enhancementチームを中心にルールや仕組みを整え、文化を広げていくことで、少しずつ理想に近づけています。Eightの開発組織は、こうした課題に正面から向き合い、 小さな改善を積み重ねながら最適な形を模索し、 「より早く、より持続的にユーザーに新しい価値を届けられる組織」へと進化を続けていきます。
おわりに
EightのWeb開発組織は、まだまだ進化の途中にあります。組織体制に明確な正解はありませんが、問い続け、試し続け、学びを積み重ねることで前進してきました。これからも理想と現実の間で葛藤しながら、一歩ずつ進化を続けていきます。Eightは、プロダクトと組織の両面で、これからさらに進化していきます。一緒に挑戦を進めてくれる仲間を募集中です。少しでも興味を持っていただけたら、ぜひカジュアルにお話ししましょう!